Jリーグと校庭の芝生化



前回は日本のスタジアムにおける芝生の管理、維持の難しさについて書いたが、
今回はより日常的な校庭の芝生の現状と問題について考えてみたい。


全国にある校庭を芝生化できるか?
そしてその問題とは?


まず芝生化する利点として

  • 温度上昇の抑制
  • 砂や土ぼこりの抑制
  • 子どもが外で遊ぶ機会及び時間の増加

(いじめ撲滅の一助?)

  • 安全性の向上
  • 住民の交流の場に


一般論としてはこのあたりだろう。


競技力の向上から考えた場合に、

(サッカーならスライディング技術の向上)
ラグビーならタックル周りの技術の向上)


反対に芝生化するデメリットは簡単に言えば以下二つだろう

  • 初期投資の負担
  • 維持、管理が難しい


さてそこで現状である。
最新のデータではないが、文科省の2009年の発表によると、
全国3万5831校の公立学校で


芝生化された学校は、1746校


20006年の3.7%から4.9%にアップ。


東京都では175校、整備率は5.8%。


ちなみに2006年時点で最も整備率が高かったのは鹿児島の29.6%


ダントツのビリが岡山県高知県のなんと0%


2006年時点の大阪府は7.8%で108校。
橋下徹が積極的に推し進めた効果だそうだ。
彼は高校ラグビー経験者。
きっと芝生の上でプレーする渇望と喜びを知っているのかもしれない。
芝生化に関心ある人は、次の選挙では彼の政党に一票入れることになるのだろうか?


ちなみにNZはほぼ100%に近いそうだ...


さて、ここでJリーグの取り組みである。



こちらミスター・ピッチは、Jリーグ百年構想の一環として、全国に芝生のピッチを増やす活動のキャラクターである。
その理念はこちら


[http://www.j-league.or.jp/100year/lawn/:title=Jリーグの芝生化への取り組み]

Jリーグでは芝生の校庭がある学校でサッカー教室の開催やキャンペーン活動を行い、グラウンドや校庭、園庭の芝生化の応援活動を行っています。校庭やグラウンドの芝生化は全国各地で成果を挙げ、現在、日本全国に芝生の校庭を持つ学校は、1,900校以上にまでなりました。
 弾力性に富んだ芝生の上では、体への衝撃も和らぎ、けがの防止に役立つのは言うまでもありません。芝生の張られた校庭や園庭では、はだしになった子どもたちが元気に走り回り、跳びはね、明るい歓声が満ちています。目にも優しい芝生の緑色は「いやし」の効果もあり、気持ちを穏やかなものにしてくれます。生き物である芝生との触れ合いは、命の大切さ、環境への配慮を考えることにもつながります。

 さらに、芝生は地域の人々の交流を活発にし、そのきずなを深める効果も秘めています。芝生の維持には、多くの人々の協力が欠かせません。そのための活動を通して会話が生まれ、共通の目的への仲間意識も芽生えます。芝生はまさに、地域の交流のシンボルともなるでしょう。


この活動の結果、多くのクラブが地元の行政と手を組み、ピッチ作り、もしくは維持・管理のノウハウを共有している。
味の素スタジアムで問題になっているFC東京小平市調布市と行っているし、
湘南ベルマーレも小田原や近郊の学校を手伝って緑の景色を増やしている。
沖縄では以前ブログでも書いた、サッカーのキャンプ招致ビジネスの一環で、芝生の質が問題となり、
国立競技場などの芝を管理している東洋メンテナンスに事業委託して芝生ソムリエの育成を力を入れている。


こうやってJリーグの尽力によって全国の校庭に着々と芝生が増えているのだが、問題がないわけでもない。
素人だけで管理してせっかくの芝が枯死したケース。
これは一部であったり、全部であったり様々なようだ。
そして原因も様々で、日の当たり具合、頻繁に踏まれる箇所、そして幼虫やカラスなどによる被害。
日本サッカー協会のシンボルがカラスなので何ともいえないシュールな結末だが...
極端なケースでは、野球部とソフトボール部の親が怒りに任せて剥がしてしまったケース。
こうなってくると何がなんだかわからない。


しかしこれらの問題の根にあるのは、やはり初期投資の問題だろう。
真っ当に緑一面のゴルフ場かのような綺麗な芝生を敷き詰めようとすると、
自動散水できるスプリンクラー(水撒き機)などを含めてざっと5000万以上掛かりかねない。
年間の維持費に至っては200万円にもなる。
(校庭の面積によって差がある)
これは欧米と比較して、初期投資が5倍、維持費が10倍という声もある。


参照:芝生普及のためのイノベーションを提供する企業: ケースワイズコンサルティング(株)


そこで登場するのが最近よく耳にする「鳥取方式」!

35年前にNZから来日したNPO法人「グリーンスポーツ鳥取」の代表、ニール・スミス氏が提唱する芝生の管理方法だ。
Jリーグのようなピカピカのピッチ(全部がそうでもないが)でもなく、ゴルフ場のグリーンでもない、
雑草を活かす芝生だ。
コストが安く維持も簡単。
維持方法に関してスミスさんは、
「肥料も水やりもできなくていい。とにかく頻繁に芝刈りをすればいい」
いささか極端な気がしなくもないが、Jリーグ並のピッチは1㎡あたり2〜3万円掛かるのに対し、こちらは100円。
彼らの芝生の定義とは、

種類を問わないで草や芝を
頻繁に刈って出来上がった
転んでも痛くない絨毯のような形状

だそうだ。
しかも何千万円もかける必要がない。
本格的な試合は無理かもしれないが、これなら地域交流、温暖防止、子どもの遊び促進などの目的は叶えられそうだ。


こうやってみてくると、日本のスポーツ界にとって校庭が芝生化されることのよるプラスの方が多そうだ。
運動が好きな子どもが増え、さらに競技力向上の下地が芝生によってもたらされる可能性が高い。
ただ問題は、やはり人なのだろうか?
芝生化のノウハウを持っている人がどれだけいるのだろうか?
そして芝生化の利点を知っている政治家、行政、及び市民がどれだけいるのだろうか?
もちろん東京都や川崎市のように予算化しているところもあるが、もっともっと広がりが欲しい。
成功している地域では、高齢者の健康増進の一環として芝刈り作業に参加しているケースもあるようだ。


常々思うのだが、まずは全国に増えている廃校のグラウンドをまず芝生にしていくことはできないだろうか?
トライ&エラーの余地がまだ在校生のいる学校よりあるだろうし、
地域交流のハブとしての役割としてももってこいだろう。
私は常々地域密着型のスポーツクラブは廃校を再利用するべきだと思っているが、芝生化のハブとしても活用できるだろう。

参照:廃校をスポーツクラブに


Jリーグは今年でまだ誕生して20年。
20年という年月を経て、競技力という点ではワールドカップでベスト16という地点まだたどり着いた。
この百年構想の芝生化運動はまだ開始から7年しか経っていない。
13年後に芝生の普及率はどれくらいになっているだろうか?
今後もこの活動を応援したいと思う。


にしてもラグビー界から何も聞こえてこないのは何故だろうか???



参照: プレイバック・報道ステーション企画 『こんなに安く簡単に校庭が芝生になるなんて驚き!』


関連記事:Jリーグ 芝生問題から見えるスタジアムビジネス問題


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