高校ラグビーの危機

高校ラグビーの人気が危機的な状況を迎え始めている。
競技人口とともに、参加校が極端に少ない地区が増えている。



島根県の県予選参加校は2。
高知は3。
福井も3。
山形、香川、佐賀は4。
14地区がなんと1桁台。


反面、愛知は56。
埼玉は52。
神奈川は47。
福岡は46。
この地区はそれぞれ代表枠1を争う。


全国大会の優勝校は1998年から、神奈川、京都、大阪、福岡に限定される。
当然参加校が少ない県の代表は歩が悪いと言われても仕方ない。
ちなみに今年の島根県決勝のスコアは
202対0
毎年話題になる佐賀県の決勝は
185対5


しかし、参加校が多い県も安心していられない。
なぜなら全てが単独チームによる参加ではないからだ。
東京の51校中25校しか単独チーム参加がなかった。
他は複数校による合同チームというのが現状。


ラグビー協会から聞こえてくる改革案として、
花園出場校の数を32に減らすことや、
7人制の普及などが挙げられている。
正直どれもパッとしない。
そもそも参加校を少なくしてどうするのだろうか?


しかし確かに日本のラグビー界には地域格差が生じている。
トップリーグのチームの所在地をみてみよう。


東京
サントリー
東芝
キャノン
リコー


千葉
NEC
NTTコム


群馬
パナソニック


静岡
ヤマハ


愛知
トヨタ


大阪
近鉄
NTTドコモ


兵庫
神戸製鋼


福岡
サニックス
九州電力


これと大学の勢力図を考えればわかる通り、ほぼ関東、関西圏に主要チームが集中している。
群馬のパナソニック、静岡のヤマハ、愛知のトヨタだけいささか孤立している。
ちなみにトップリーグ下のトップイーストトップウェストを見渡しても、
秋田ノーザンブレッツ釜石シーウェイブスなどがあるものの、関東、関西集中傾向は続く。


単純に考えてみて、スポーツとはやることはもちろんだが、
生で見ること、そして実際に対戦する、プレーすることで受ける刺激は強いはずだ。
そうなった場合に、関東、関西、福岡以外の地区はどうしたらいいのだろう?
これこそがラグビーが普及しない最大のボトルネック、問題の根源ではないだろうか?


静岡、愛知、群馬もひょっとすると風前の灯かもしれない。
高校生達が触れる機会が少なすぎないだろうか?
切磋琢磨する相手すらいなくて、試合をしたら200対0、
これでラグビーを始めろと言っても無理があるだろう。


九州なら東福岡は近隣にラグビーをやっている高校が多い。
そして九州電力サニックスと練習試合ができるかもしれない。



大阪なら天理や同志社などの大学のみならず、近鉄神鋼と練習試合できるかもしれない。
その結果学生のレベルが上がり、その後トップのレベルが上がり、世界でも勝てるようになると
人気面でもいい循環が生まれかもしれない。
でもこれが群馬だと同じ図式が描きにくい。


そうなると地域密着型クラブの発想が出てくるのだろうが、
ラグビーは企業スポーツのため難しい。
地域密着型のクラブの発想で行くと、ヤマダ電気の本社が存在する群馬は、パナソニック・ワイルドナイツのスポンサーになるのだろう。
群馬のラグビーチームを支援し、そのユースチームが出来、
地元高校と切磋琢磨、または時に協力して(指導者の派遣など)、
地区大会を勝ったチームが花園に向かう。
こういう未来ができるといいのだろう。
しかし現実ではヤマダ電気が、パナソニックの企業チームを応援したら、
東芝NECは黙っていないだろう。
またクラブチームが全国高校ラグビー選手権に出場資格があるのかどうか?
やはり現状のままでは、どこか無理が生じるのだ。


ラグビー協会ができることはなんだろう?
私は指導者の派遣ではないかと思う。
しっかりとした指導者の数を増やし、ラグビー過疎地区に派遣する。
反対も出るだろう。
学校側とも調整がかなり必要だろう。
しかし島根県代表の石見智翠館も、202対0の試合をするより、
もっと競った試合をしたいのではないだろうか?
佐賀工業も多少骨のある相手を求めていないだろうか?


さらにラグビーは危険が伴うスポーツである。
しっかりとした指導なくして、いきなり全国を争う強豪校と、
吹奏楽部から助っ人を依頼して対戦をする学校との試合は、
安全面でも不安が残る。
この状況を改善するには、良い指導者を派遣するしか手はないと思う。
その数が少しずつ少しずつ増えていって初めてラグビーが根付くのではないだろうか?


これができないのであれば、トップリーグのグラウンド所在地を大幅に変更していかなければならないが、
これは企業に支えられている以上考えられない。


その他の代案としては、Jリーグや欧州のサッカーリーグでも度々話題に上る、
スーパーリーグ構想だろう。
関東、関西、福岡エリアの強豪校ばかりを集め、リーグ戦を行う。
これは学生スポーツの意義、教育的価値に反するだろうから現実性は乏しいだろう。
しかし強化の面だけを考えれば効果はあるだろう。
レベルの高い競った内容の試合を繰り返すことで、選手とチームのレベルは引き上げられていく。
一方でこのスーパーリーグ構想はより特定地区集中の色を強め、普及のスピードを遅くするかもしれない。


どちらにせよ、日本には2019年にワールドカップがやってくるという現実が迫っている。
7年後に活躍しているだろう高校生の現状がこのような惨事であることはかなり危機的である。
しかしだからといって特効薬、即効性のある手が見えてこない。
優秀な指導者の絶対数も問題なのに、
さらに全国に派遣していくとなったら、効果が表れるのは何年後だろう?
そしてそもそも協会にはそのような財力があるのか?
気分が暗くなるばかりだが、こうなったらやはり代表と
エディー・ジョーンズという世界的にもトップクラスの
指導者に期待するのが一番なのかもしれない。
まずはトップの強さが若いラガーマンを惹き付けることを願おう。


エディー・ジョーンズの監督学 日本ラグビー再建を託される理由

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