書評:攻め切る 指揮官 西野朗の覚悟

久しぶりの書評だが、そして年末だが、あえて厳しくいきたい。

攻め切る―指揮官西野朗の覚悟

攻め切る―指揮官西野朗の覚悟


西野朗氏と言えば、知りたいことは絞られてくる

レイソル、ガンバ、ヴィッセルでの不可解な解任
マイアミの奇跡について
ガンバ大阪の強さの秘訣


だいたいの人が以上のことについて知りたくてこの本に手を伸ばすと思うが、
残念ながらどの点についても詳しく触れられていない。
日立製作所のコーチからユース代表のコーチを経てスタートしたキャリアを、
ガンバ大阪時代の終わりまで淡々と描いた一冊である。
しかし、テーマが定まらないため、ただ事実を並べて追いかけているだけで
起承転結がない。
最近どこかで似たような内容の本を読んだなーと思った。
そう、その本も事実を時系列に追いかけているだけの一冊だった。


ネルシーニョ すべては勝利のために

ネルシーニョ すべては勝利のために


ネルシーニョがいかにすごいかを、結果論的にひたすら綴った内容は正直つまらなかった。
コアなファンならシーズンや試合を思い出しながら楽しめるも知れないが、一般のファンには物足りない。
西野氏に関するこの一冊も残念ながら同じ部類に入ってしまう。


まず
レイソル、ガンバ、ヴィッセルでの不可解な解任
について。


レイソルの解任については、正直この一冊の方が詳しく書いてある。

人を束ねる (幻冬舎新書)

人を束ねる (幻冬舎新書)


ただ当時その後ガンバへと移る際に西野氏が、
日立からパナソニックに移っていいものだろうか?
と考えたというエピソードは、
まだまだ実業団の影響が強く残っていたことを伺わせる。
その点でJリーグが近年いかに企業色を払拭できたかを象徴する意味で西野氏の存在は貴重かもしれない。


そして残念ながら本のハイライトにもなり得たガンバの解任劇については特に詳しくは触れられていない。
理由はわからない。
その後のヴィッセルに関しては、出版のタイミングでまだ解任される前だったため、触れられていない。



次に
マイアミの奇跡について
だが、

こちらも内容が薄い。
マイアミの奇跡と言えば、一つの話題作が西野に大きくスポットライトを浴びせた。



中田や前園の攻めたがる攻撃陣、アピールして海外へと羽ばたきたい選手、
その一方で直面する厳しい現実との狭間で葛藤する監督として脚光を浴びた西野だが、
この時の心情や決断、悩みや背景はこの本からは浮かび上がってこない。


この傾向はガンバ時代の描写でも続く。

ガンバ大阪の強さの秘訣

10年も続いた希有なこの一時代の強さの源は残念ながら見えてこない。
外国人選手が10得点取ろうものならすぐに引き抜かれる現状など、
普段あまり伝わってこない点もいくつかあるものの、
どうやってあのプレースタイルに行き着いたか、
その哲学や秘訣、さらには苦労した点などがあまり浮かび上がってこない。
ただ伝わったのは、彼が攻め続けたかったという意志のみ。
しかし何故そうなったのか?
過去に何かトラウマがあったのか?
彼を突き動かしたのは何か?
そしてマンネリせずに10年も続けられた秘訣など本来なら深く知りたい部分は届けられない。


やはりこれが自伝ではないせいだろうか?
より多くの考察、インタビュー、証言が欲しいところなのだが、
ないが故にどうしても薄い淡白な内容となってしまう。
元々西野氏に饒舌な印象はない。
ひょっとするとまだ現役へのこだわりが強いためか、
手の内を見せたくないのかもしれない。
しかし、西野朗を描くということは、やはり解任の真実や、G大阪の攻撃サッカーに深く迫るということではないだろうか?
そこを攻め切れずして西野朗を語れずではないのだろうか?


一方そこを埋めるためか、この本にはカラーの写真がふんだんにある。
確かに西野氏は俳優の西島秀俊や一昔前なら草刈正雄に似ているかもしれない。
しかし、私は彼の外見が好きな女性ファンではないため、残念ながらこれに関しては特に心は動かない。


正月にはいよいよ天皇杯の決勝が行われる。
Jリーグが20年目の成人を迎えるシーズンのフィナーレは、
皮肉にも薄い内容の本で紹介された2人の監督、西野朗ネルシーニョが影響する2チームの戦いとなった。。


残念ながら今回のこの一冊で西野氏の人物像や指導哲学、ノウハウは浮かび上がってこなかった。
仕方ないから、優秀なブロガーとネットの情報を活用して、彼を知るとしよう。
そして天皇杯決勝に備えよう。


西野朗監督の攻撃的サッカーの評判について

【ヴィッセル神戸、西野朗監督解任について一言】

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