書評:ラグビー日本代表 ONE TEAMの軌跡

日本のラグビーには地熱がある。数は多くはないかもしれないが、ラグビーのことが好きで好きでたまらない熱いファンと現場の人たちが、日本代表の氷河期を支えていた。企業に例えるならば、大西鐡之助や宿沢広朗という稀有な指導者の手腕によって何とか世界に一矢を報いるも、その後のグローバル化とプロ化の波に見事さらわれ、一気に瀕死の状態に陥り、復活の兆しが見えない状態になってしまっていた。それでも、地下での熱は消えなかった。上層部は腐っているが、現場の熱い意志と努力と技がまだかろうじて灯火を消さずに、燃え続けていた会社のように。そこに変化を加えたのが、部長クラスといえばいいだろうか?中間層が改善を重ねたトップリーグだろう。ここにマグマが引き継がれ、改善を重ねることで、海外との繋がり、海外からの知見と経験が流れ込んだ。そしてその刺激によるトップリーグの進化が、その後のエディー・ジョーンズ体制を導いた。世界トップクラスの上層部を迎えたことで、ついに地熱が地上に溢れ出した。その結集が2015年W杯での躍進に繋がり、ブライトンの奇跡を生んだ。
守破離」で例えるならば、エディージャパンの日本代表は、COOに世界レベルの仕込みを施され、それを徹底的に「守」に徹して成長した企業と言えるだろう。最終局面で選手たちは、指揮官を超えて自らトライを取りに行く判断を下して、自立と勝利を勝ち取って終わる物語であった。
今回のジョセフジャパンは、その「守」で成長した選手たちを「破」のステージに導く物語である。自ら考え、自ら行動し、エディージャパンのベースの上で、全く違うラグビーとチーム作りを展開した。
この本は、その過程を間近でみた二人のスタッフの視線で改めてその軌跡を辿る一冊である。カリスマCOOの強烈なリーダーシップとプロデュースのもと成長した選手たちが、今度はダイバーシティー、コミュニケーション、オーナーシップなど、世界トップレベルのコンピテンシーを発揮して、さらなる高みにたどり着いた軌跡を描いている。
コロナ禍の現在、彼らの活躍を見れた時間が、どれだけ幸せでありがたいことだったか、改めて感じさせる。熱い地熱が与えてくれた感動を思い出し、幸せにひたれる時間をくれる一冊だ。
ジョセフジャパンは2023年まで続くが、「破」のあとのステージには、何が待っているのだろうか?果たして「離」の境地にたどり着けるのだろうか?そのためには、上層部だけでなく、中間層もそして現場も一流でないと辿り着けないのだろうか?今後の4年間が楽しみだ。そして、この奇跡の源である、地熱が消えずに、むしろ増加し続けることを期待しよう。