Jリーグ 芝生問題から見えるスタジアムビジネス問題

Jリーグの芝生が問題視されたのは、2008年の味スタ、FC東京のピッチコンディションの低下から端を発した選手のケガ続出とパフォーマンスの低下が最初かもしれない。
当時のFC東京村林社長は声を大にして問題視し、移転問題まで話に上がる始末だった。
それ以前のJリーグ創設期には、元々土や枯れ芝のグラウンドでプレーしていたのが当たり前だったから、ピッチなどという言葉は一般的ですらなかった。
そのためか、ピッチコンディションによるクレームや問題はあまり大きくならなかった記憶がある。
違ったらごめんなさい。
もちろん当事者、現場では様々なやり取りがあったことだろう。
しかしJリーグができたばかりの頃は、芝生があるだけでありがたいという空気感であったことは確かだろう。


しかしそんなJリーグも今年で20周年を迎え、成人となった。
そんな最中、今年の8月またもや味スタでピッチの質について問題が勃発。
芝生の様子はこちら

ドメサカ板まとめブログ

味の素スタジアムの公式発表


味の素スタジアム側の芝生問題に対する最大の元凶はこちら



こちらa-nationは毎年行われている訳だから、味スタの芝生問題は毎年直面するものとして認識するのが正しいだろう。


この問題、味の素スタジアムの管理責任を問うだけの簡単な問題ではないと思う。
色々深く考えてみたい。


まず、
芝生の種類

芝生には様々な種類がある。

参照

0からの芝生の庭造りとガーデニング体験談

大きく分けて暖地型と寒地型。


暖地型は夏に育ち、寒さに弱く枯れやすい。
そのため秋から寒地型の芝生を植えていくこと(ウィンターオーバーシーディング)でピッチコンディションを保つ。

寒地型は、年間通して生育されるが、高温多湿に弱く病気になりやすい。


こちらを見るとオーバーシーディングの様子がよくわかる

富山県陸上競技場のオーバーシーディングの経過報告



Jリーグではほぼ暖地型を使用しているチームが多い。
今年のJ1の振り分けは以下の通り


寒地型
レッズ、コンサドーレベガルタアントラーズ


暖地型
グランパスエスパルスサガン、FマリノスFC東京フロンターレアルディージャジュビロヴィッセルサンフレッチェレイソルセレッソ、ガンバ、アルビレックス


グラウンドキーパー


芝生は当然のことながら次の試合までに勝手に奇麗に生えてくる訳ではないので、当然芝生を管理する人間が必要である。
日本の多くの管理者=グラウンドキーパーは、外郭団体所属であり、元々はゴルフ場のグリーンキーパーだった人が多いようだ。
さすがに20年もプロサッカーリーグがあると、各スタジアムそれぞれのノウハウやテクニックが身に付いているようだ。


さて、ここでFC東京のグラウンドキーピングに関しての問題はいくつかある。


まず、FC東京のグラウンドキーピングを担当しているのが、オフィスショー。
こちらの代表の池田省治さんはおそらく日本で唯一本場アメリカのプロスポーツのグラウンドキーパー経験者。


彼はメジャーリーグNFLでも伝説のグラウンドキーパー、ジョージ・トーマ氏に従事した経験がある。




そんな第一人者が槍玉に上がっているのは実は大局で見た時に日本のスポーツ界にとっては痛手かもしれない。
本場の実情を知る唯一の人間が窮地に立たされている訳だが、そこに焦点をあてるマスコミが日本にはいないのだ。
第一人者でも改善できない理由があるとしたらそれはなんだろう?
トーマ氏の本拠地はカンザス・シティー。
MLBのロイヤルズとNFLのチーフスがプレーする。
Wikipediaによると気候は以下の通り

気候は大陸性で気温の年較差が比較的大きく、冬にはやや乾燥するものの1年を通して安定した降水量がある。ケッペンの気候区分では温暖湿潤気候(Cfa)に属する。夏にはメキシコ湾からの湿った空気がカンザスシティにも届くため蒸し暑く、7月や8月には華氏100度(セルシウス度37.8度)を超えることもある。冬は温暖な日もあれば寒さの厳しい日もあり、1年に数回氷点下10度以下に下がることがある。春や秋は全般的に過ごしやすいが、時々雷雨に見舞われることがある。

温暖湿潤気候という区分だけでみると、実は東京と同じなのである。
だとすると気候の違いはあまり理由にならないかもしれない。


土質だとするともはや私の知識レベルをはるかに超えているが、これはプロのグラウンドキーパーなら当然理解しているだろう。


でないとするとここからが問題だ。


資金の問題


ヨーロッパのサッカースタジアムには、約1300万円する日照機がビッグクラブには備えられているようだ。

フットブレインよりチェルシーの日照機


こういった器具は同番組の10月13日の放送によると、「日本では見たことがない」そうだ。
次にスタジアムの所有権、もしくは所有者について。

味の素スタジアムは、株式会社東京スタジアムによって運営されており、元々は東京都の第3セクター事業だったという流れがある。
FC東京が所有して、FC東京が自由に使えている訳ではないのだ。
つまりFC東京ヴェルディーの試合以外で当然収益を上げていかなければならないのだ。
参考資料:第18期報告書

そのため、当然陸上競技のトラックもあれば、a-nationも行うのだ。
利用率を上げないといけないのだ。
それでも潤沢に儲かっているという訳でもなさそうだ。
(もし決算書などに詳しい方がいれば補足して頂きたく)


そうなってくると前述の日照機を購入する資金がなかったり、試合で傷んだピッチを回復させる時間が取れなかったり、さらに痛めつけるイベントを合間に入れたりする必要性が生じるのもうなずける。
つまりスタジアムビジネスがきちんと利益体質にならないと、芝生のコンディションも良くならない可能性が高いのだ。
いくらアメリプロスポーツ仕込みの一流職人があたっても、沢山イベントを入れられたら、立ち向かえるものも立ち向かえられないのかもしれない。


前述のオーバーシーディングも相当な予算を必要とするようだ。
Jリーグレベルの芝生管理には1㎡につき2万円相当かかるそうだ。
競技はかわるが、冬の秩父宮ラグビー場の芝生が一向に改善されないのもうなずけてくる。
残念ながらラグビーがスポーツとしてお金を生み出せていないとしか言いようがない。
おそらく芝生にかけられるだけのお金がまわっていないのだろう。
一応全面張り替えしたらしいですが...
それは資金が潤沢にないJリーグクラブにも同じことが言える。
ビッグクラブならいざ知らず、サッカー専用スタジアムのあるクラブならいざ知らず、しかしどちらもないクラブの現状は厳しい。


では代替案はあるのだろうか?
ミランサンシーロは、人工芝と天然を混ぜるハイブリッド型の試みをしている。



こちらは選手の足裏の感触がどうなのか?などまだ様々な議論の余地があるところだろう。


芝生、ピッチのコンディションがいいとどのような効果があるのだろうか?
ケガを防げる。
サッカーなら足元を見なくてもプレーができる。
転ぶ抵抗感がない。
芝生の匂いが心地よい。
見た目も良い。

色々あるだろう。
しかしその裏でそれをしっかり支えるだけの経済力が必要だ。
香川選手が所属したドルとムンドにも日照機があるようだが、チャンピオンズ・リーグの賞金で購入したそうだ。
そうなるとJリーグのチームがACLで上位進出することなども真剣に考えないと行けない。
また、現状の日本ではクラブが儲かるだけでは足りなくて、スタジアムも儲からなくてはいけない。
今これが日本のスポーツビジネス最大の問題かもしれない。
鶏か卵かの状況だが、強くなって集客力が上がれば施設が良くなるのか?
それとも施設を良くすれば集客力が上がるのか?
中途半端にどちらにも踏み切れない現状が今スポーツ界の最大の問題かもしれない。
味の素スタジアムの芝生問題も一筋縄で解決できないのも見えてくる。
次回は校庭芝生化の側面から何か解決策はないかみてみたい。



このテーマに興味を持たれた方は、ぜひこちらのポッドキャストもお楽しみ下さい。

日本のスポーツビジネスの現状と問題点について


日本のスタジアム問題について



Facebookページはこちら

スポマン JAPAN!




関連記事:スタジアムに必要なもの
関連まとめ:行ってないけど楽しんでみた、あの有名なスタジアムツアー!
関連記事:J 2020年基準 スタジアム増改築
参考記事:またしても勃発した味スタの芝問題。J1のスタジアムとしてこれで良いの?