書評:常勝の理由「紅蓮たれ」


高校ラグビー奇跡の4連覇へ導いた指導者のバックグラウンドと哲学


常勝の理由「紅蓮たれ」

常勝の理由「紅蓮たれ」


第一印象は不思議なタイミングで出版された本だなと感じた。
冬の花園の時期でもなく、彼が現在指導している大学ラグビーのリーグ戦の時期でもなく、2006年尾5月でラグビーといえば国内で主な活動しているチームは光が見えてこない代表チームのみ。
何故この時期だろうか?
まさかトライ・ネーションズだから???
もったいない... 優勝直後に出せばもう少し売れたのに...


それはさておき、啓光学園ラグビー部監督として全国大会4連覇。
大量にリクルートすることができない環境の中で、記虎氏は私立校の部活動において実に画期的な展開をしている。
それはある意味で部活動での一貫教育。
選手を引っ張ってこれない中で彼が取った手法とは、啓光の付属中学からの一貫教育であった。
いってみれば、サッカーでいうユースチームを持つことであろうか?
多くの大学、高校が付属の高校や中学があるのにも関わらず、こういったことが一切行われていない。
このような取り組みが強化の面だけでなく、学生が人間として多くを学べるチャンスであると思う。


本書は淡々とあっさりとした文面でかかれており、記虎監督の人柄、ラグビーや学生に対する情熱、そして全国優勝へ導くためのエッセンスが書かれている。
「紅蓮たれ」熱いハートと冷静なマインドを持て。
山口良治氏の著書を読んでいる人たちにとって見れば、紳士的に書かれているこの本はひょっとしたら何か「熱さ」が足りないかもしれない。
また、より勝負に徹したテクニカルな本を求めている方はこちらの本をお勧めする。


しかしながら、NZのラグビーに触れたことによる彼の転機や、教え子の発言から伝わってくる彼の教育的な哲学は読み応えがある。
最後には教え子を通して関係が深い、現ヤマハ監督の清宮氏との対談もある。
いずれ二人で代表チームや協会や大学ラグビー界を動かしていくのだろうか?


いずれにしても、現在龍谷大学を指導している記虎氏、彼が残した付属校の部活の在り方や、小さくてもきちんとディフェンスするチームのスピリットが、日本のラグビーにいち早く普及してもらうためにも、多くのラグビー関係者に読んでもらいたい本だ。

しかし気になる点もある。
2004年から就任した龍谷大学ラグビー部が一切振るわないのである。
関西リーグのBリーグに甘んじており、とても全国優勝を5回している監督の采配とは見えない結果がついている。
現状がとても気になるが、何故かあまり何も聞こえてこない。
さて前回のエントリーで、オールブラックスからの提言を紹介したが、その中に大学レベルで大きく差がつくことが強調されていた。
高校では世界的に見てもレベルが高いのに、たいして勉強もしない上に、大きくプレーの面で差がつく大学の現状をオールブラックス経験者が嘆いている訳だが、とにかくここの差を埋めることを記虎氏には期待したい。
大学ラグビーが世界レベルに追いつかないようだと、日本のラグビー人気に危惧を感じる人は多いだろう。
それに最近は関東圏の大学ばかりが強く、関西の大学が活躍しない。
このままでは優秀な選手が大学を素通りしてトップリーグ入りする流れが生まれるかもしれない。
なんとか新たな流れが関西から生まれることを、ラグビーの発展のためにも願おう。
付属校からの大学までの一貫指導がひょっとしたら急がば回れの逆転のシナリオかもしれない。


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