書評:日本ラグビー世界への始動


さあいよいよ明日はラグビーワールドカップにおけるジャパンの最終戦
前回引き分けた因縁の相手、カナダとの再戦。
前回からコーチ陣をほぼ入れ替え、NZ人監督クローリーエディー・ジョーンズも認める指導で日本よりもフランスと善戦したチームである。
日本のラグビー界に光を差す意味でも、2019年の開催国のメンツを懸ける意味でも重要な一戦だ。

ちなみにエディー・ジョーンズの大会展望はこちらで

さすが過去2回のワールドカップの決勝に関わった人物だけあり、面白い程展望が当たっている。


さてラグビー狂会本をシリーズで振り返ってきたが、今回は2009年に出版された一冊。
明日の大事な一戦の前に、一度2年前に取沙汰された問題を整理してから明日は遮二無二応援しよう。

日本ラグビー世界への始動

日本ラグビー世界への始動


内容としては、2019年自国ワールドカップ開催も決まり、そこでベスト8に入るためにはどうすればいいかが主題となっている。
ベスト8に入るための検証
日本で行われた第2回ジュニアワールドカップ(U20のワールドカップ)の振り返り
日本のプレイスタイルの確立について
この辺りが本の大半を占めている。
また、前作に続いてフランス人のラグビー好きの章もある。

さてこの本のテーマが壮大すぎることもあり、全ては網羅できないにしろポイントだけでもまとめていきたい。
フル代表の縮小版とも言える自国開催のJWCにおける日本代表の成績は、16チーム中15位。
サモアスコットランド、イタリアと競ったものの、イングランドには大敗し、唯一の勝利をウルグアイから挙げた。
競ったというものの、各国の代表チームがどれだけ準備してきたかは怪しい。
ちなみに日本は5次合宿まで開いてこの結果だから、チームとしては相当完成されていた方であろう。


2019年、この世代の選手はフル代表でも充分活躍していてもおかしくない年齢である。
その世代が惨敗している。
誰が考えてもベスト8に入るには大ピンチだろう。
しかしなんだか急ピッチで進まないのが日本のラグビー界。
ゆっくりとJKに全てを預けている。
JKは王道のラグビースキルを選手に授け、その成果は表れている。
確かにベースアップはできており、ティアー2の国相手には勝てるようになってきた。
しかし、それはあくまで横綱たちと同じ戦法を体力的に劣っている力士が取る戦法であり、弱者の戦法ではない。
もちろんオリジナリティーのある戦法でもない。

そこで古い時代、1960年代後半から1970年代、日本が世界を驚かせた時代のノウハウを横井章氏に聞きにいく。
横井章氏は、1968年ジャパンがジュニア・オールブラックスに勝った時のメンバー。
その後大西ジャパンの主将を務める。
現役引退後はしばらくラグビーから離れていたが、日本ラグビーの伝統が消えかかっていることを危惧して、様々なチームにアドバイスを送っている。
最近では京都成章高校(ヤマハの矢富が教えを受けている)などが結果を出している。
ブログもあります!かなりおもしろい!
横井章の魅力あるラグビー
この人のインタビューがとにかく多岐にわたっておもしろい。
サッカーの岡田代表監督も使おうとした「接近・連続・展開」(本当の順番は、展開・接近・連続らしい)の説明から、芝生のグラウンドの必要性から、
他の競技にたしなんだ方がいいことや、
低い姿勢と瞬間ダッシュの重要性、
ラグビー協会が率先してトップのコーチと選手に統一の意識を持たせる必要性、
現場の重要性。
書けばキリがないほどで、全部コピペしたいぐらいの内容だ。
とにかくこのインタビューだけでもこの本は一読の価値がある。
一番の真髄はやはり接近・連続・展開の部分だろう。
唱えた大西監督が残念ながら死去してしまったため、このフレーズはよく聞くものの、正確に理解している人間は少ない。
しかしそこに日本の活路がある。
世界と同じ道を歩むだけでは限界がある。
その上に日本ならではのアイデンティティーが欲しい。
それこそが唯一ベスト8を可能にする道だと。
それがこの本のおおよその結論である。


その他は問題視されている大学ラグビーの位置づけ。
世界的に大学ラグビーが盛り上がっているのは日本だけであり、強化の足かせになっているものの、人気があるが故にメスを入れにくい。
ここでハイパフォーマンスマネージャーに就任したばかりの岩淵氏のインタビューもあり、さすがに世界的な視野と日本のラグビーの良さを肌で知るだけに、含蓄のある言葉と共に悩みもみえてくる。
ラグビー協会の組織が透明性に欠けるだけに、彼にどれだけの責任と力が与えられているのかが不明な点で、ラグビーファンは皆不安だろう。
大学生のトップリーグチームへのインターンや全カテゴリーの監督が一堂に会して日本のラグビーを語る会議の設置などいいアイディアが飛び出してきたが、果たしてその後も実現、または継続しているのかは残念ながらよくわからない。
時間がないというのに。


さて、これが2009年の段階の日本ラグビーの現在地。
あっという間に2011年のラグビーワールドカップ終戦まで来てしまったが、オリジナリティーはジャパンからは観られない。
外人ばかりが増えたという批判も多い。
しかし基礎なくしては応用がないように、JKがベースのレベルアップをしたからこそ2019年にベスト8に入れたと言えるように、とにかく明日は勝って欲しい。
いきなり2勝にステップアップさせてもらえる程世界は甘くない。
でも間違った形で勝利してその後迷走するより、地味でも基礎に則って確実に勝利をすることで、2019年へ盛り上がれるなら、それもいいではないか。
とにかく1勝。
まずは1勝。
そしてその先はとにかく厳しく迅速に更なる改革を求めていきたい。


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