書評:日本ラグビー未来への挑戦


さて前回は2005年時の日本ラグビー狂会本の紹介したが、今回は時計の針をもう2年進めて2007年ワールドカップ後に発売された一冊をみていきたい。

日本ラグビー未来への挑戦

日本ラグビー未来への挑戦


今回の内容は大まかに以下の内容となる。

・フランス大会でのジャパンの戦いぶりの総括
・2チーム制の善し悪しについて
・開催国フランスのラグビー文化及びフランスチームの戦いぶりの総括
・そして48試合全てのレビュー

個人的には48試合のレビューがとても便利でなおかつ記憶を甦らせるのにとてもよく、DVDと合わせて読むと最高だろう。

ラグビーワールドカップ2007 プレミアムBOX(2枚組) [DVD]

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改めて読み返すと、人々の記憶の曖昧さがよく理解できる。
先日の敗戦でジャパンに対する厳しい論調、もしくは勝てるはずだった相手に負けた、みたいな論調が多いが、前回のトンガの戦いぶりを思い出すと、普通に勝てる相手ではないことがわかる。

詳しいマッチレポートはこちら
ラグビーW杯考察。未来に暗い影を落とす日本代表の完敗  by 藤江直人

PoolAにいたトンガは、アメリカ、サモアを退け、1軍ではないにしろ優勝国の南アを30vs25という接戦で追い込み、イングランドを負ければ予選敗退というという位置まで追い込んだ。
残念ながら36vs20と試合巧者のイングランドにいなされてしまうのだが、攻めまくることで2003年王者を焦らせる展開に持ち込んだことは確かだ。

Pool Aのハイライト


それが4年後、日本が普通に勝てるという意識を持てるようになったという意味では、ジャパンは成長していると言っていいのかもしれない。
(それかマスコミのレベルが恐ろしく低いか...)
期待値がそれだけJKジャパンにはあったということだ。
では、その4年前のJKの総括をこの本から読み通していくと、おおよそ下記の通りになる。


・勝利への執着心
・集中力の途切れないディフェンス
・高いフィットネスレベル
・攻めるしかない時の速い球出しによる連続展開
・体格コンプレックスの払拭


一方課題として、
・攻撃面全般 (特徴がない、形が見えないなど)
・経験と継承 (経験値の高い選手が選考されていない、前任者や前回大会からの継承がない)

以上が挙げられた。


これが2007年時点での総括。
2011年と比較してみてどうだろう。
ベースアップはされているものの、劇的に何かがよくなったり、何かマイナス面が大きく解消された訳ではない。
フランス戦の善戦は2003年に観た光景と言えるかもしれないし、フィットネスと集中力の途切れないディフェンスはまだまだ世界との差があるだろう。
体格コンプレックスは払拭できたかもしれないが、差があるのは確かだろう。
経験と継承に関しては、ほぼ同じメンバーでここ数年編成されてきたジャパンは、ある意味代表チームなのにクラブチームのような一体感があり、そうしたことでこの点をJKは解消しようとしてきたのだろう。
しかし攻撃面全般、そして日本化することに関しては、多くの人が?マークを掲げており、ラグビー王国から来た監督に、弱者の戦法がそもそも指導できるのかどうか?など難しい面が多々ある。


そう考えると、JKは実はジーコとすごく似ている気がする。
二人ともそれぞれの競技においてはスーパースター。
二人とも人格的にへんなレッテルは貼られていない。
故に日本のマスコミは叩きにくいアンタッチャブルな存在。
一方で二人ともその競技の王国から来ているが故に、弱者のマインドを変えるのに苦労している。
そして二人とも必ずしも優秀な指導者という位置づけはまだ勝ち得ていない。


共通項が以外と多い二人だが、幾つかの点でJKの方が優れているかもしれない。
メンタルマネージメントという点においては、JKの方がジーコよりも進んでいたといえるかもしれない。
選手の戦いぶりには迷いが聞こえてこない。
また、ディフェンス面の整備と言う意味でもJKの方が功績は大きいだろう。
少なくともジーコ・ジャパンからディフェンス面の進歩は聞こえてこなかった。


しかしこれは考えてみれば自然なこともかもしれない。
ジーコと違って、JKの方が引退後にコーチの下積みを行っている。
そして13人制ラグビーのリーグにも一度身を置き、ディフェンスのシステムなどを学んでいる。
本著にも書いてあるのだが、JKは「合理性」の伴う分野においては、しっかりジャパンを成長させているのである。
ジーコアントラーズで成し得たことを、短期間しか集合しない代表レベルでJKができたことは、コーチングの技量の差かもしれない。


ただこの「合理性」とは言い換えれば競技の基礎であり、そもそもそこで大きな差があってはならないのだ。
ディフェンスは極論すると誰でも頑張れば出来るし、ある程度のルールに則って行えば理論上は破綻しない。
しかしそれを破るとなるとこれはどんなボールゲームでも一緒で、弱者がオフェンスで強者を突破するのは至難の業なのだ。
相当なコーチングを擁する。
これはサッカーの日本代表をみてもわかるだろう。
オフェンスには相当なスキル、相当な判断力、相当な訓練、相当な戦術が必要となってくるのだ。
ここはラグビー王国から来たコーチの「合理性」だけでは突破できない限界があるのかもしれない。
これこそ協会の力が求められる。
何故ならスキル、判断力等は代表レベルでせっせと培っている場合ではないのだ。
そうなってくるとまた問題はまた日本ラグビー協会に戻っていくのだが、今回の狂会本では、あまり協会批判がされていない。
なんとかカナダと引き分けた感動からなのか、JK政権がまだ続きそうだという安堵感からなのかは定かではないが、それ以前のゴタゴタよりだいぶマシな状況だということも一因ではあるだろう。
いずれにせよJKがもたらしたものは、ラグビーというスポーツの根本部分のベースアップによる、勝利の可能性を感じさせるところまでジャパンをレベルアップさせたことだろう。
次のカナダ戦では、可能性を感じさせるだけでなく、なんとか勝利をつかみ取りたい!


最後に、「合理性」や基礎、根本部分の上にジャパンは何を乗せるのだろう?
まだ最終戦を残して次の一手の話は些か時期尚早だが、どうしても考えさせられてしまう。
基礎の次は応用がある訳で、それを非合理性であったり、アドリブだったりすると、どうしても思い浮かんでしまうのが、フランスのシャンパンラグビーであったりする。
しかしJKの前の監督は、エリサルドというフランス人。
すったもんだがあってやめさせられる訳だが、この人は実は弱者の戦法が得意だった監督。
本来なら順番としては、基礎を固めるNZ人、その上に応用を乗せるフランス人という流れが良かったんだろう。
しかし、遠回りした末に2007年からの目標である2勝の夢は潰えて、残りは1試合となってしまった。
なんとか勝ってJKジャパンの正当化を!そしてそこから発展させられる議論ができるためにも、勝利が必要だ。
頑張れジャパン!



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