オールブラックスが強い理由 ラグビー世界最強組織の常勝スピリット

オールブラックスが強い理由 ラグビー世界最強組織の常勝スピリット

オールブラックスが強い理由 ラグビー世界最強組織の常勝スピリット


ラグビージャーナリストでお馴染みの大友信彦氏の最新刊。
これはもはやラグビーやチームの話を超えた内容で、国や文化、誇りの話かもしれない。
人口420万人強の島国の代表チームが何故にそれほど強いのか?
この疑問を解くべく筆者は日本とNZ両方に結びつきがある人物10人にインタビューを行っている。
日本人選手、日本人トレーナー、オーストラリア人のプロコーチ、選手、そして日本でプレー経験のあるNZ選手と多岐にわたる。

インタビューを行った10人は、
日本人選手&指導者
田邊淳
宮浦成敏
堀江翔太
坂田好弘

NZ選手&指導者
ジョン・カーワン
トニー・ブラウン
ルーベン・ソーン
デヴィッド・ヒル

オーストラリア人選手&指導者
ジョージ・グレーガン
エディー・ジョーンズ


インタビューを通して幾つかのキーワードが浮かび上がってくる。
クラブ文化の存在
オールブラックスの伝統の強さ
地域協会とNZラグビー協会の連携の良さ
そしてひょっとすると競技に対する生真面目さから来る過度のプレッシャー
オールブラックスはある意味強すぎるが故に、ワールドカップでは勝てないのかもしれない。


インタビューを通して全員が口を揃えて重要なファクターとして挙げたのが、クラブの存在だ。
どの選手もどんなに小さな町の出身でもスタートは地域のクラブだったことを述べている。
そこから頭角を現し、やがて町からより広範囲な地区のスカウティング網に引っかかり、そこでの活躍を認められてさらに上の地域の代表へと駆け上り、今でいうSUPER15のクラブ、そしてオールブラックスへと階段がつながっている。
途中リーグも同時にプレイしたり、学校のチームと平行してプレイすることあるものの、全員がその道を通ってきている。
そしてライバル国のコーチ、エディー・ジョーンズでさえもその全国に行き届いたコーチングの水準の高さを評価している。
しかしこれだけで終わらないのがNZのすごさ。
階段が上になればなるほど選手の情報は驚くべきことに協会できちんとデータベース化され、シェアされている。
日本では日本ラグビー協会の傘下に関東協会、関西協会、九州協会しか地域の協会が存在しないが、人口420万人のNZには、なんと26もの地域協会が存在する。
しかもその歴史が半端ではない。
一番古い協会の創立年次は、1879年!
ウェリントンカンタベリー協会が設立されている。
高水準のコーチングと広範囲のスカウティング網、NZではラグビーの才能を決して見逃すことはないようだ。
そこには、日本の部活のような年齢の縛りはない。
つまり選手が上手ければ18歳でもSUPER15のメンバーになれる。
これは例えば早稲田ラグビー部の選手と比較すれば、違いが一目瞭然だろう。
成蹊大学相手に100対0で週末を過ごすのと、南アのブルズやオーストラリアのレッズと争うのではどれだけ差がつくだろう。
日本で言えば、競技こそ違えど、学年の縛りなく成長したのがなでしこジャパンの澤選手や少し昔になるが、バレーボールの中田久美選手。
そんな妙な縛りがない国だからこそオールブラックスの存在は絶対であり、そこでの競争は熾烈であり、選手は真面目に取り組まなければ、次の選手に取って代わるだけだ。
だからこそNZの選手は世界のどのクラブへ言っても真面目でハードワーカーだと評判なのだろう。



この優秀なシステム、クラブと地域及びNZラグビー協会の両輪による好循環は確かに強化という意味では申し分ない。
ただ注目して欲しいのは、このクラブ文化と指導の高水準は、普及の意味合いもある。
各人がクラブでの生活を話すとき、日本のように少年時代から勝利至上主義で特訓ばかりしていたような話は一切聞かない。
年齢に応じてラグビーというスポーツの楽しさを知ったり、ハンドリングなどの基礎技術を磨いたり、チームファースとのスピリットを学んだり、年齢が上の人と絡んだりすることで成長したりと、スポーツと人間の基礎を学んでいることも述べている。
第一線を退いた選手がクラブに戻って3軍の試合に出たりすることもあるようだ。
約10年ほど前、オーストラリアのクラブ、ランドウィックの試合を観に行ったことがあるが、それこそクラブの良さがつまっていた。
朝から5軍の試合が開始され、夜の大一番は1軍の試合が行われた。
つまり一日中試合が行われているのだが、3軍の試合にキャンピージがプレーしていた。
オーストラリアの大スターが10代後半や30代後半の選手に混じって楽しそうにプレーしていた。
日本では考えられない光景である。
観客も1000人程いたことも信じられないが。。。
そうして年配者は若者へ技術や経験を還元していくのだろう。
競技人口がオーストラリアよりも約4倍多いNZで同じことが行われているとすると、文化が成熟していくのもうなずけるだろう。


さてハードワークと真面目さで評判のNZ選手だが、どうもこれらがオールブラックスの絶対なる伝統と要求の高さと合わさって弱みにもなるようだ。
オーストラリア人はラグビーをゲームとして捉え、ゲームとして臨むからこそ戦略を立て、時には自らの長所を犠牲にしてでも相手の弱点をつく戦術をつかったりするが、その発想はオールブラックスには皆無のようだ。
開始1分から相手を圧倒することを求められ、自分たちの長所を全面に出す戦術を繰り出すのがオールブラックスだ。
国民全体のプレッシャーと漆黒のジャージの伝統を背負って大一番に臨む彼らにとって優勝以外は全て失敗であるがために、逃げ場がない。
その上真面目であるが故に、相手をいなすこともしない。
故にワールドカップでは足元をすくわれてしまうのかもしれない。


オールブラックスが滑るのは大抵準決勝か準々決勝と相場が決まっている。
圧倒的な強さで予選ラウンドを突進し、その直後に歯車が狂うケースがほとんどだ。
1999年のフランス戦しかり、2003年のオーストラリア戦しかり、そして2007年またもフランスにしてやられている。
盤石の体制で臨むグラハム・ヘンリー監督(早稲田を一夏指導したことがある)は、史上最高FWと言われるマッカウ主将と共に地元開催を優勝で飾れるのか?
王国の復権なるか?は、全世界のラグビーファンが注目している。
そしてその充実したオールブラックスと戦うジャパン。
監督はオールブラックス唯一のワールドカップ優勝の立役者、ジョン・カーワン
母国のあらゆる監督の座から避けられている彼は手腕をアピールできるのか!?
次の一戦は145対17で負けた19995年の悪夢を振り払う意味でも興味深い一戦でもあり、恐いもの見たさのような一戦でもある。
そして2019年の自国ワールドカップ開催につながる一戦であることも期待しよう。


さてひたすらNZのラグビーの奥深さとレベルの高さを書き綴ってきたが、一つ日本のレベルアップにつながる簡単な方法をトニー・ブラウンが述べているので紹介したい。

僕は、日本のラグビーは、大学に問題があると覆っている。
ニュージーランドでは、その年齢でもうオールブラックスになっている選手も多い。
だけど、日本の場合、高校生はとてもいいラグビーをしているけれど、大学に行っている間にレベルが停滞してしまって、4年経って社会人に進んだとき、レベルのギャップに苦しんでしまう選手がほとんどだ。
大学が終わってトップリーグに入って、2〜3年かかってやっとトップリーグでプレーできる能力を身につけたときには、もうトシをとってしまって、キャリアが短くなってしまうのが現状だ。

どうせ日本の選手は、たいてい大学に行っても勉強してないじゃないか?
勉強をしたい選手は、トップリーグのチームに所属しながら大学に通えばいい。
それはニュージーランドでもフランスでもイングランドでも普通にやっていることだ。

これぞまさに日本のスポーツ全てに当てはまることかもしれない。
日本が世界と競えているスポーツのほとんどは、高校から直接プロないしはトップのリーグへ行っている競技ばかりだ。
のほほんとたいして勉強もしないで、フルタイムの専任の指導者もいない環境で時を過ごす競技はことごとく弱い。
そう、そんな環境で成長を止めるのはやめて、トップのリーグに所属しながら大学に通えばいいのだ。
セカンドキャリアも問題になっている日本のスポーツ界だが、やはり自らの意志で勉強する選択をしなければ、大学にいる意味もあまりないのだ。
クラブ文化がある欧州では、年齢が違う様々な人と会う機会が多いから、そうした生活から社会勉強をすることもあるのだろう。
しかしその環境がない日本では、大学生活が重要な意味を占めていることは否めない。
でもトップのリーグとて朝から晩まで練習している訳ではない。
チームの理解もあれば大学に通うことは充分可能な選択だろう。
こうして考えれば考えるほど、NZのラグビーは全てが理にかなっている。
日本のように穴がない。


日本が世界に近づくには、タックルだ、ラックだ、スクラムだと近視眼的に技術や戦術を追うのもいいが、(ちなみに、日本の最大の弱点かもしれないハンドリングの技術は日本からみて相当高く、判断力も若い頃から磨かれていくようだ)一度俯瞰してその国のシステムを真剣に学び、それを日本に落とし込む回り道のような作業を泥臭くやる必要があるのではないだろうか?
実はサッカー協会がそれを行っていたからこそ、今のジャパンやなでしこがあるのだ。
指導者というよりかは、プロデューサーが今の日本ラグビー界には求められているのかもしれない。
ラグビーという競技を超えて、スポーツの力、影響力、文化的価値まで考えさせられ、想像を膨らませる一冊だった。






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