菊谷主将とオルフェウス・プロセス

遂に今日からラグビーワールドカップが始まりました!
NZの圧倒的な勝利でスタートした大会に、明日ジャパンも登場する。
東京では日テレが明日の放映の中吊り広告を出すなど、ちょっとずつ盛り上がってきた。
まだまだ物足りないので、個人的な後押しを今日もやることにします。

菊谷崇
第6回ラグビーW杯日本代表キャプテン
1980年生まれ、31歳
身長187cm 体重100kg
ポジション:FL
トヨタ自動車ヴェルブリッツ所属
恵まれた体格からトライも取れるFWとして代表キャップ23を獲得



菊谷選手のキャプテン就任は、本人にとってもラグビー界の人々にとっても意外な選択だったようだ。
何故なら、小学生の時に野球チームで一度やったことある以外で、主将経験が一度もないのだ。
元来イギリス発祥のスポーツには、選手交代の発想がない。
アメリカ発祥のスポーツと違って、一度試合が始まったらチームのキャプテンが責任を持って試合を進めていくという発想がある。
それだからサッカーやラグビーにはタイムアウトもないし、元々は選手交代もなかった。
つまり問題が起きたり、試合中の修正はすべてキャプテンを中心に行うことが求められてきた歴史がある。
そんな中、どこか悪ガキの香りも残しつつ、飄々としている菊谷選手に強烈なキャプテンシーが求められるラグビーの主将のイメージはなかったのだろう。
ちなみにラグビージャーナリストの大友信彦氏は彼を間口の広さから「劉邦」と称した。
裏を返せばそれだけ強烈な個性が現在のジャパンにはいないということなのかもしれないが、それに対するチームの対応が実に興味深い。
一人で全部背負うのではなく、ジャパンは菊谷をサポートするグループリーダー制を取っている。
大野選手などから形成されているFWのグループ。
田中選手や小野澤選手等で形成されているBKのグループ。
総勢10人もの副将が菊谷主将をサポートしている。
他には音楽担当のホラニ選手や、タイムキーパーや旅案内担当(遠征先の現地の歴史や文化を伝える担当)の畠山選手など様々な役割を選手が責任をもってこなしている。



この話を聞いたとき、あるオーケストラのことを思い出した。
オルフェウス室内管弦楽団
1972年に数名の演奏家により創立。
カーネギーホールを本拠としているこの楽団は、リーダー不在のオーケストラとして有名だそうだ。
どういうことかと言えば、指揮者がいないのだ。
普通楽団は指揮者がラグビーでいう、キャプテン兼監督のような役割を担うそうなのだが、この楽団は、27人全員がリーダーという組織体制を取っている。


具体的には、個々の演奏家が順次交代して形式的なリーダーを務める。
ジャパンと同じく、いくつかのグループを形成し、それぞれのチームリーダーがその時のトップリーダー(コンサートマスター)と共に、どんな楽曲を演奏するか、どういう風に練習するか、そしてどのように演奏するか等を決めていくそうだ。
それをオルフェウス・プロセスとも呼ぶそうだ。
まとめると下記のようになる。

5つの要素

  • リーダーの選出 ー リーダーグループの決定
  • 戦略の開発 ー 楽曲の決定
  • 音楽の開発 ー 練習
  • 音楽の完成 ー チェック
  • 音楽の引渡し ー 実際の演奏

オルフェウス・プロセスには以下の8つの原則があり、

8つの原則

  • その仕事をしている人に権限をもたせる
  • 自己責任を負わせる
  • 役割を明確にする
  • リーダーシップを固定させない
  • 平等なチームワークを育てる
  • 話の聞き方を学び、話し方を学ぶ
  • コンセンサスを形成する
  • 職務へのひたむきな献身

メンバー曰く、
オルフェウスで他に類を見ないのは権力が分散されていることだ。私たちは何をするにも、多様性という強みを基盤にしている。」


もちろん、演奏者だけで全て運営している訳ではなく、非営利団体の形をとっているこの楽団には、協会やJKヘッドコーチ、太田GMに相当する役割を担っている組織の最高執行部、理事会があり、演奏家も毎年3人加わっている。
まさにJKの役割を担う芸術監督もおり、その人が毎年100以上のイベント、公演、レコーディング、公立学校への公開レッスンのプランを立てていくが、中味は上記の通りのプロセスで決められていく。


トップダウンではなく、エンパワーメント。
現代ビジネスでもそれは度々議論される。
そして集合知やらリナックスやらソーシャルなどと騒がれる今の時代にこの組織体制はマッチしているのかもしれない。
一方でどこかで読んだことある名言で、「偉人の銅像はあるが、委員会の銅像は見たことがない」というのもある。
歴史は強烈なリーダーシップによって創られてきたという意味なのだろうが、菊谷ジャパンは秩父宮に委員会の銅像を建てられるだろうか?
新たな歴史を作ることが出来るのか?
それとも歴史の法則に従ってしまうのか?
協会は何も考えずにJKの銅像を建ててしまいそうだが、いずれにせよキャプテンシーの観点からも面白い大会になりそうだ。
明日はフランス戦。
頑張れジャパン!


オルフェウスプロセス―指揮者のいないオーケストラに学ぶマルチ・リーダーシップ・マネジメント

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