IMG アカデミー 世界のトップを生み出す施設

残念ながら今日世界第5位のフェレールに敗れてしまったものの、
錦織圭の躍進は日本のスポーツ界にとって明るい話題だけでなく、
多くのアスリートを勇気づけていることだろう。


錦織の13歳から本拠地としているのが、アメリフロリダ州にあるIMGアカデミー。
IMGは世界のトップ選手を抱えるアスリートのエージェント企業。
育成、トレーニング、契約、スポンサー様々な面でトータルにアスリートを支援する。
日本の選手でも錦織の他に、宮里美香浅田真央石川佳純石川遼室伏広治など多くのアスリートが所属している。


ここのアカデミーが驚くべきことは、その広大なキャンパスのみならず施設の充実ぶりだろう。
テニスコートだけでも50面以上。
ジョコビッチシャラポワなどの面々も登場する。



その他に、ゴルフ、野球、バスケットボール、アメフト、サッカーの施設があり、
トータルのトレーニングとサポートを行っている。
敷地内には寮はもちろん、美容院やその他の生活面の施設も完備。
アカデミーに所属できるのは18歳までだが、もちろんプロに進んだ選手は錦織のようにここを拠点とする事もできる。




アカデミーの年間の授業料は約600万ほど。
全額親が負担するケースもあれば、スカウトしたり各協会や所属からの負担もある場合もある。
いずれにせよ全員が全員プロになれるわけでもないが、
アメリカの場合その後有名大学へ進学、そこで活躍しいずれまたIMGにお世話になるケースもあるという。
ビジネスでいうならば先行投資とリターンってところだろうか。
しかし見込んだ選手が必ずしも大成しないのがスポーツの難しいところ。
アカデミーはそこのリスクを埋めるためかどうかはわからないが、
一般向けのキャンペや教室も開いている。


一つ日本ではあまり馴染みのないアカデミーの使用例を紹介したい。
NFL 2011-2012シーズンの新人王、キャム・ニュートン


このシーズンはロックアウト(スト)のため、キャンプのない異例のシーズンだった。
QB(クォーターバック)という司令塔のポジションの性質上、キャンプがないままシーズンを迎える事は相当不利な条件であった。
そのため、ニュートンがIMGでどのような準備を行ったかというと、

ドラフト直後にIMGアカデミーの約185㎡の4ベッドルームの宿泊施設に入る。
そこで、IMGが契約しているコーチ、2000年のハイズマン賞受賞者、クリス・ウェンキ氏の指導を受ける。


疑似NFLキャンプを再現したトレーニングに加え、
フィジカルトレーニング、そしてQBに最も大切なフォーメーションやディフェンスの陣形を読む教室での指導も加わる。


途中元NFLのQB、ケン・ドーシィー氏も加わる。



そして準備万端、ロックアウト終了後のニュートンの活躍ぶりは、もはや語る必要もないだろう。
ちなみに、当時のアカデミーでのトレーニングについてニュートンは、こう語る。



ちなみに費用は全額スポンサーのアンダーアーマーの負担だそうだ。




IMGアカデミーでは、他競技でもこのような疑似体験を通してプロの世界への移行、またはシーズンへの移行をスムーズにする手伝いを行っている。



さて、では日本ではこういったサポートを得られるところはあるのだろうか?
トップアスリートならナショナル・トレーニングセンターになるのだろう。
民間では私の知る限り存在していないというのが日本の現状だろうか?
規模はともかく、そしてサービスに限りがあるものの、先日のNHK特番「プロフェッショナル仕事の流儀」で紹介されたイチロー選手のトレーニング機器を開発したワールドウィングが近いかもしれない。


(動画は2008年時のもの)


ここは小山氏が提唱する初動負荷理論をもとに、独自のトレーニングをアスリートに提供する。
その理論に基づいて開発されたマシーンをイチローは自宅に導入している。
中日の山本投手、ブルワーズの青木選手、その他ゴルフの青木功選手、陸上の100m日本記録保持者の伊藤浩二氏なども通っていた。


新トレーニング革命―初動負荷理論に基づくトレーニング体系の確立と展開

新トレーニング革命―初動負荷理論に基づくトレーニング体系の確立と展開

「奇跡」のトレーニング

「奇跡」のトレーニング



ちなみに番組で彼が語った言葉、

「大人になって体が成長していくとセンサーをみんな失っていく」
「特に無理やりバランスを崩して大きくしていく人たちはどんどんセンサーが崩れていってわからなくなるんですよね、みんな」


という言葉は清原へのアンチテーゼだろうか?
ワールドウィングのトレーニング機器がイチローのセンサーを保ってくれるという。
同じく年末の特番を見ていたら、清原と桑田のトレーニングの質の違いは明らかだっただろう。



さて話を戻して、ワールドウィングのオフィシャルサイトを見る限り、
周囲の施設と提携しており、合宿的なキャンプを張れるものの、
IMGアカデミーとは様々な意味でまだ道のりは遠い。
これはまだまだ日本におけるトレーニングの位置づけの低さ、そして市場としてまだ未成熟な部分だろう。
しかし、今後日本がスポーツ大国になっていくためには、すぐには無理でも、
少なからずこんな施設が存在していることだけでも大きな意義があるのだろう。
いずれ日本にもこういった拠点ができることを夢見つつ、イチローのセカンドキャリアはこういった事業であることを期待してみたい。







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「ヘッドレスチキン」と「桜木JR」という最強の戦術


アメリカのバスケ用語、
「ヘッドレスチキン」
をご存知でしょうか?
90年代NY Knicks ファンならジェラルド・ウィルキンス(ドミニクの弟)を思い出してみるといいかもしれない。




バスケにおけるヘッドレスチキンの定義は、
ゲーム・インテリジェンスのなさ、
次にカットインした時に、見てる側に悪寒が走る選手、
苦し紛れの片足ジャンプが多い選手、
TO(ターンオーバー)が多い選手、
ショットセレクションが悪い、
キープ力がない、
外角シュートが弱い 
このヘンとする。


つまり余計な時にカットインしたり、シュートしたり、TOしたりする選手。
アメリカはそこは観客も目が肥えているし、指導者も相当うるさい。
そのため外人やアメリカの大学帰りの選手は己の出来ること出来ないことが比較的整理されている場合が多い。
例:トヨタの松井、伊藤選手



日本のヘッドレスチキン代表は意外と思う人も多いかもしれないが、ある意味バスケ界の顔、五十嵐選手だと思う。
アイシンの柏木選手と比べて、ゲームメイク力と外角シュート力とゲーム・インテリジェンスのレベルはかなり低い。一言でいえば「判断力」につながる。




まだ本調子じゃないものの、無駄な片足ジャンプがないことや、TOしないことや、ゲームインテリジェンスという意味では田臥選手の方が見ていてはるかに安心する。
彼の問題は外角シュートだが、それはとりあえず置いておいたとして。



では、ヘッドレスチキンにならないためには?
単純に1対1のスキルの高さだろう。ボールを奪われないという大前提で、横、縦、高さ、前後、もしくはタイミングでずれを作れるかどうか?
その上で狭いハーフコートの中でスピードを上げた際に、止まってジャンプシュートできるか?
周りが見えているか?
決定力があるか?


この辺が鍵となる。
毎回五十嵐選手のようにカットイン時に床にドカーンとダイブせざるを得ないシュート状況は、見栄えのインパクトはあるものの、判断として往々にして苦し紛れの結果である。
それにファウルもらえないことが多く、逆速攻の対象にもなる。
つまりカットインがヘッドレスチキンかどうかのリトマス試験紙


カットイン時に綺麗に終われる選手は大抵レベルが高い。
床に転がったり、ボールをはたかれたり、簡単にシュートブロックされたり、TOしたり、当てもなく空中に飛んだり、派手にチャージしている選手は、まず頂けない。
こういう人を見かけたらヘッドレスチキンと呼んであげましょう。


違う意味でのヘッドレスチキンは、求められてもいないのにポンポンシュートを放ってしまう人にも当てはまります。
ブレックスの山田、三菱の鵜澤あたりがそうかもしれません。
彼らがアイシンでプレーできない理由はその辺りでしょう。
逆にアイシンの鈴木監督はそこの見る目があると思う。


アイシンの戦術はこの約10年一環として「桜木JR」。
これが戦術なのです。



離されれば打つ、
近寄れば抜く、
状況が悪ければ背中を向けて押し込んでポストプレイに持ち込む、
ダブルチームが来たらパスを出して3ptを呼び込む。
彼のJBLで卓越した技術と、ゲームインテリジェンスのあるPGと外角シュートを打てて余計なことをしない選手とディフェンスの頑張りで成立しているチームです。
わかりやすく言えば、連覇した時のロケッツ。



当時のロケッツは、オラジュワンが戦術でした。
彼のまわりに、スミス、オーリー、エリー、カセルというシューターを並べ立てる戦術。
後はリバウンドとディフェンスを頑張る選手一人。
まぁー途中ドレクスラーというずるい選手も加入しましたが、NBAのGやFでボールキープできない人なんていないので、余計なことをせずに3ptラインで待つ。
ずれはオラジュワンが作ってくれる。
後はゴールにカットするか、パスをもらって3ptを打つか。
単純なものだ。
当時のヘッドコーチに戦術家としての名声はアメリカではありません。
(ちなみにロケッツの戦術を発展させたのが、スパーズのグレッグ・ポポビッチでしょう)
アイシンがここ何年も行ってきたのはそれ。
佐古から柏木、小宮から朝山、外国人と多少の入れ替わりはあれど、気付きませんか?
役割は一緒です。
(ちなみに佐古選手の力は突出していました。
3pt良し、カットイン良し、カットインから止まる事も出来たし、ゲームメイクの意識も高かったです。)





つまりこれが何を意味するかというと、判断を簡略化することで、ヘッドレスチキンタイムの出現率を減らしているとも言えます。
ヘッドレスチキン現象が出るとすれば、ショットクロックがゼロに近い時です。
一度JBL日本人選手のショットクロック10秒切った時にシュート確率を出すと面白いかもしれません。
おそらくヘッドレスチキンが浮かび上がることでしょう。


一方でチキンなだけに鶏と卵で、アイシンの鈴木監督はこういった選手の存在を理解していて、あえてチーム編成に加えていないのかもしれません。
アイシンはゲーム・インテリジェンスが高い選手が多いのが特徴です。
役割付けをはっきりした指導を行っている裏返しかも知れませんが。。。
いずれにせよ、彼はそこにたいして敏感、むしろアメリカのスタンダードで考えているといえるでしょう。


日本ではパッシングゲームが主流です。
これがヘッドレスチキンを生んでいる元凶かもしれません。
パス・ラン主体のパッシングゲームではどうしてもボールが散らばる。
そして動きの中で目の前にスペースが生まれると、人間どうしても本能的にそこに向かいます。
その時にヘッドレスチキンかどうかで結果に大きく差が生まれます。
パッシングゲームのもう一つの弱点は、責任の所在がわかりにくい、つまり明確な役割がオフェンスで付けにくい。


日本の傾向として、190センチ台のFの選手が特に苦労する傾向があります。
その理由は、大学バスケとJBLのレベルの差でしょう。
では何が違うかというと、3つ挙げられます。

  • 外国人選手の存在
  • フィジカル
  • ディフェンス

JBLではここのレベルが急激にアップします。
結果、コートが狭く感じます。
フリーの時間が減ります。
ずれを作るのが容易ではない。
ゴール下近辺の高さが全く違う。
大学バスケの現状では、190センチ以上あって動ければ、かなり活躍できてしまうのが現状です。
しかし一つ上に上がると、ワンドリブルでレイアップに行けていた世界が大きく変わります。
相当なドリブル力含む前述の1対1能力

ボールを奪われないという大前提で、横、縦、高さ、前後、もしくはタイミングでずれを作れるかどうか?
その上で狭いハーフコートの中でスピードを上げた際に、止まってジャンプシュートできるか?
周りが見えているか?
決定力があるか?


がないと綺麗にシュートまで行けません。
そのため、朝山、広瀬、大西などが大学ほど華々しく活躍できずに苦戦してしまうのです。
この手の選手は幾多あまたと輩出され続けられるのが今の日本の現状です。
一方川村選手レベルまで行くと、見苦しいTOの数がだいぶ減り、アシストも残すという結果につながってきます。



このレベルの選手が増えないと、日本は世界では勝てないでしょう。
そしてこのレベルの選手が増えないからこそ、日本のバスケ界はアイシンと桜木JRという戦術をもう10年近くも超えられないのです。
これが日本の実情です。
竹内兄弟が桜木JRを超えられなかった時点で日本と世界の距離はまだまだ遠い。
では超えるためにはどうするのがいいでしょう?
現状二つの選択肢があると思います。
パッシングゲームの幻想を捨て、育成現場から1対1強化の指導指針を協会が率先して出す。
②役割分担を徹底した戦略で、育成現場からスペシャリスト養成の方針を協会が出す。


②のわかりやすい例として、日本にもヘッドレスチキンにあまりならない選手はいるが、ほとんどがシューターという傾向が強い。





やはりバスケットは突き詰めればシュートを入れる競技。
1対1に強くなる、有利になるための最大の武器、そしてヘッドレスチキンを避けるためには、シュートが上手ということは必須条件ということだろう。
シュートの指導が実は一番の近道かもしれない。
そしてその先に始めて日本バスケ界のイノベーションが待っているのだろう。


いかがでしょう。
日本のレベルアップのために「ヘッドレスチキン」。
この言葉を流行らせませんか?
まだイメージが湧かない人はこの少しえぐい動画をご覧下さい。



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書評:室伏広治 超える力

超える力

超える力

ロンドンオリンピック日本選手団の活躍は、チームワークと科学の勝利として認識されるだろう。
この二つの要素は個人競技で最も顕著に表れ、室伏広治の銅メダルがその証だろう。
「チームコウジ」
それはかつて北島康介が結成したチーム北島と同様のものであり、昨年のオリンピックの日本の躍進の要因が詰まったものである。


個人競技でのチームワークとはなんであろう?
それは水泳が扉を開けた、至極当たり前だが、普通に行われて来なかったことの実践である。
個人種目の選手は、それぞれの所属のチームのノウハウにのみ頼っていた時代があり、
日本代表という組織の中で真のチームとなることはなかった。
アトランタ五輪で期待された水泳選手団が惨敗したことを受けて、当時の競泳代表ヘッドコーチだった上野氏が、
その風通しの悪さに楔を打ち込んだ。

アテネの空に日の丸を!―水泳ニッポン復活の戦略

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そこから日本代表はそれぞれの指導者や所属チームが垣根を越えて協力する体制が出来上がり、
国内でせめぎ合うばかりでなく、日本全体で海外と戦う意識がもたらされた。
つまり異業種コラボも含むチーム日本。
いいとこ取りによる切磋琢磨。
そこに科学の力が近年加えられたのだ。


ナショナル・トレーニングセンターがこのタイミングで完成したことも大きい。
これにより日本の各スポーツのトップアスリートが一同に会する場所が出来、そのノウハウが集められた。
これにより一枚岩の協会(競技)と、所属チーム同士の壁がまだまだ高い団体競技(柔道)とでは、
メダル獲得数には大きな差が開いた。


そんな中チームコウジとはどんなものだろうか?


スポーツ医療、理学療法士ハンマー投げの技術的なコーチ、フィジカルトレーニングの専門家が集い、
室伏選手をサポートした。
テニスの錦織選手もサポートするロバート・オオハシさん、
サッカードイツ代表をサポートした咲花さん、
全米一の民間トレーニングセンター、アスリーツ・パフォーマンス、
ハンマー投げのテクニカルコーチ、元スウェーデン代表トーレ・グスタフソンさん、
(彼は現在アメリカでカイロプラクティック、ストレッチングなどを用いてケガを回復するスポーツ・クリニックも開いている)
そして忘れてはならない、父、室伏重信さんの存在。
チーム室伏は最強のメンバーで構成されていたと言っても過言ではない。






しかしさすが室伏広治、彼のすごさはここでは終わらない。

深は新なり

様々な技術革新を残し続けてきた東レの技術研究者達に残るこの言葉にあるように、
一つのことを深く極限まで突き詰めていく中で、
新しい発見がある。



室伏広治はまさにこれを実践している。
知らない人も多いかもしれないが、そう、彼は研究者でもあるのだ。
中京大学助教授でもある彼は、スポーツバイオメカニックスの専門家でもあり、博士課程も修了している。
彼の修士と学位論文の内容は、
ハンマー投の回転半径」

「ハンマー頭部の加速についてのバイオメカニックス的考察」
そして現在取り組んでいるのが、

スキルに関する物理情報を音や電気刺激に置き換えて、リアルタイムで直接、運動を支援する、小型センサを用いたトレーニングツールだ。


そうです。。。




このブログでも文武両道がスポーツ界にもたらす様々な効果を唱えてきたが、正直これはもうレベルが違う。
そして彼の好奇心と探究心は科学だけに捉われず、さらに古武道にも向かっている。
自然の動作の追求のため、投網、扇子投げ、囲碁やおはじきを投げるなどその挑戦は多岐を極める。




そしてさらにはその視線は日本のスポーツ界にまで及ぶ。
彼が実践してきた活動を学術としてまとめ、唱えることはこうだ。


日本では地域に根ざしたスポーツ・クラブの基盤がない。
学生は体育会や体育学部にしか進むしかない。
しかしそこで監督やコーチは一部の優れたアスリートしか見ない傾向が強い。
そしてその後学生は体育教員になるか、体育関連の仕事に就くしかない。
これではもったいない。


そこで、科学との融合だ。
応用スポーツ科学
運動生理学
スポーツ社会学
スポーツ栄養学
スポーツ心理学
といった分野の教授とのパイプやバックアップ体制を構築していく。


その結果、以下6つのアスリートのパフォーマンス向上のための基礎的なサポートが得られるようにする。

  • 体力向上のトレーニングブログラム
  • 基本的な筋力アップを促し、ケガを予防するファンクショナルトレーニングや運動機能向上のプログラム
  • 運動種目の専門スキルを磨くプログラム
  • スランプに陥ったり、燃え尽き症候群を防いだり、気持ちのリセットなどの心理面をサポートするマインドセットプログラム
  • 食事や栄養学、補助食品でリカバリーを促す栄養・ニュートリションプログラム
  • 理学療法やマッサージ・医学サポートによる回復・ケガ防止及び諸器官機能を向上させるリハビリテーションプログラム


そして強調するのは、これが一部のエリート選手だけでなくて、運動に関わる全学生に提供することだと説く。


そして実はこれが、前回のブログ
書評:フット×ブレインの思考法 日本のサッカーを強くする25の視点
で書いたこととつながってくる。


スポーツには多様性があり、産業として発展していく可能性がある。
室伏選手が提唱するこの構想だけでも、
フィジカル面、研究面、スキル面と多岐にわたる分野が広がっており、
それらが開く職業の扉の数は多い。
オリンピックで金メダルを取らなくても、こういった分野で金メダルには貢献できる。
この可能性こそ部活で提示されることではないだろうか?
特に高等教育、高校、大学では選手として頑張ることと合わせて求められるのではないだろうか?
そのためには、次の室伏選手、次のオリンピック選手兼博士過程修了者が求められる。
その数が増えることによって裾野が広がり、理解が広がり、新たな夢が現実と化していく。


今日本の部活には限りなく高い知性が求められてもいいのではないだろうか?
それがこの国の部活というユニークな仕組みの集大成ではないだろうか?
そしてそれがスポーツ大国への第1歩ではないだろうか?
今スポーツ選手に求められているのは、引退後に飲食店を開くことではないだろう。


Foot Brainと同様に、スポーツという素晴らしいものを360度ぐるりと見回して、あらゆる可能性を提示したことではないだろうか?
この本が多くのきっかけと知的好奇心を刺激することを期待したい。





なお、本書ではドーピングについても多く語られているが、今回は様々な騒動が収まっていないため、そして真相がわからないため、触れることを避けた。


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書評:フット×ブレインの思考法 日本のサッカーを強くする25の視点


フット×ブレインの思考法 日本のサッカーを強くする25の視点

フット×ブレインの思考法 日本のサッカーを強くする25の視点

サッカーを独自の視点から考えるテレビ東京系列サッカー番組、Foot x Brainから誕生した一冊。
番組の内容をうまく編集して文字に落とし込んだのが、今回の内容。

戦う人
支える人
育てる人
見守る人

という4つの切り口で番組を束ねて編集している。

私はこの番組が大好きで、
今まで日本のスポーツ報道になかった、
スポーツの多様性をうまく浮き彫りにして表している良質の番組だと思う。
番組のサッカー愛が、MCの勝村さんの「はじめに」というイントロでよく伝わってくる。

以下引用

                                                                                                                                                    • -

ものごとを一方的な観点から見ることはフェアじゃない。片側から当てた光だけを信じちゃいけない。360度ぐるりと眺めて初めて、その本質に迫ることができる。

『FOOT x BRAIN』がサッカーに対して果たすことができる役割があるとしたら、まさにそんなところにある気がしています。
サッカーのことを理解するには、いろいろな角度からいろいろな見方をした方が、サッカーの魅力や本質に迫ることができます。

                                                                                                                                                        • -

確かにこの番組には、様々な分野のゲストが登場している。
料理人
代理人
選手の妻
トレーナー
通訳
ピッチの管理人
スカウト
ホペイロ
メディア
選手や指導者はもちろん、とにかく幅広い。
サッカーというスポーツを本当に360度から考察しようとしている気概が伝わってくる。


ここで大事な点は、サッカーがもたらしている職業選択の可能性と幅である。

栄養管理士、トレーナー、通訳、統計学も必要とされるアナリスト、クラブ運営(会計、マーケティング、法律)指導者、スポーツメーカー、関連グッズ、スポーツメディア(放送、出版、ライター、ジャーナリスト)、カメラマン、エージェント、選手マネージメント、プロモーション、スタジアム管理、ピッチの管理、旅行代理店、サッカーくじ、チケット、警備、フットサルコート運営、サッカースクールと関連事業を挙げるだけでこれだけの職種が浮かんでくる。


実はここに日本のスポーツ産業発展の可能性が眠っているのではないだろうか?
部活でただひたすら「頑張ればできる」「努力が大事」「夢は叶う」と唱え続けるのもいいのかもしれないが、
反面どこかで現実と向き合ってこれだけの可能性を部活の段階で示して、
ここに向かって「頑張る」「夢を叶える」努力をさせてもいいのではないだろうか?
努力のベクトルを変えるだけで、色々な可能性が提示できるのではないだろうか?
それによって初めて日本全国に徐々にスポーツ文化が根付いていくのではないだろうか?
そしてそれによって、過去の横浜フリューゲルスbjリーグ東京アパッチJBLの数々のチームのように消えてなくなるクラブも減るのではないだろうか?
逆に既存のクラブも経営が上向くかもしれない。
そう考えると、可能性を提示したJリーグの果たした役割は限りなく大きいし、責任も思い。
そしてFoot x Brainの果たしている役割ももちろん大きい。
この番組が末永く続くことを祈って、
そしてこの番組が日本のスポーツ界全体に好影響を与えることを祈って、
是非読んでもらいたい一冊だ。


テレビ東京の放送エリアは実は限られている。
番組を見れない人に是非進めてもらいたい一冊だ。


また勝村さんの「はじめに」から引用

『FOOT x BRAIN』は僕にとって「人生の親戚」です。
この番組に出会えたことで、僕の人生がとても豊かになりました。


番組のDVD化を待とう!




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日本のバスケとイノベーション

JSportsがありがたいことに、ウィンターカップのハイライト動画を盛りだくさんアップしている。

JSports チャンネル

とても楽しく見ている。


たくさんの試合を見ていて強く感じることは一つ。
プレーが完全に金太郎飴なのだ。
どこの学校も同じに見える。
どこのプレースタイルも同じ。
パスしてラン、パスしてラン、動きの中で1対1、セットプレイはほとんど見受けられない。
違いが見受けられない。
これは男女問わず、ほぼ同じ傾向と言っても過言ではないだろう。








しかしこれは高校生レベルだけの話ではなくて、実は下から上までほぼ同じなのだ。
これは昨年のブログ記事でも記している。


全日本女子決勝:いい加減違うスタイルを求む


そこでふと思った。
何か全然違うアプローチでチーム作りをしたならば、いいところまで行くのではないか?と。


誤解を恐れずに、そして育成のプロセスや細かいことを抜きにして簡単に書くとこういうイメージだ。
フォワードとセンターにガードの役割を果たせる。
そしてガードのゴリゴリポストアップ勝負で挑む。
オフェンスは遅攻め。
むしろアメリカのバスケのように完全なセットプレイ重視。
日本全国津々浦々行われるパス&ラン・ムービングオフェンスはやらない。
ディフェンスはオーソドックスにしっかり守る。



狙いは簡単で、日本全国行われているパス&ラン・ムービングオフェンスは、
ガードが潰れると機能しなくなる。
そこでガードがゴリゴリポストプレー勝負することで、相手ガードのファウルトラブルを誘引する。
スタメンクラスのガードを退場、もしくはプレイタイムを減らすことで勝利を狙う。
また、インサイドとアウトサイドの役割が逆転することで、相手は慣れないディフェンスを強いられる可能性が高く、ここでまたファウルトラブルを誘引できる可能性が高い。
そしてセットプレイーに対するディフェンスも、日本全国でパス&ラン・ムービングオフェンスしかやっていない以上、大半は守り慣れていないはずだ。


何が言いたいかと言えば、ビジネスでいうイノベーションのセオリーに照らし合わせてみると、
このような他と違うスタイルが一つくらい生まれてもいいのでは?
ということだ。


マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木隆氏のブログ
第27回  アップルのイノベーションの源流
より引用します。


イノベーションは非連続、すなわち「思いつくかどうか」の勝負である。優れたイノベーションを生むには、「思いつく」ことが必要で、「思いつく」には「考える」ことが必要だ。常日頃から考えていなければイノベーションは生まれない。何を考えるかではない。どのように考えるかが重要である。やはり、答えはアップルにあった。Think Different。スティーブ・ジョブズ復帰後の1997年にアップルが掲げたスローガンである。他と違うように考えることが重要なのだ。

違っていて当たり前の世界で個性を出そうとするなら、もっと、トンデモなく、徹底的に「違うこと」が求められる。そこまで意識して初めて「ぶっ飛ぶ」ことができる。ぶっ飛んでいること - 難しく言えば、連続性を断ち切る非連続。つまりそれがイノベーションだ。

Different、違い。それが決定的に重要だ。気が違っているのではないかと、クレイジーではないかと思われることも厭わないほど「違う」ことを重視する。Think Different のスローガンを掲げたCMで使われた台詞を紹介しよう。これこそがイノベーションを生む源流だと思う。

クレイジーな人たちがいる。
不適合者、反逆者、厄介者と呼ばれる人たち。
四角い穴に、丸い杭を打ち込むように
物事をまるで違う目で見る人たち。

彼らは規則を嫌う。彼らは現状を肯定しない。

そんな彼らを引き合いに出すことも同意しないのも自由。
賞賛しても、けなしてもいい。
しかし、彼らを無視することだけは出来ない。

なぜなら彼らは物事を変えていくからだ。
彼らは人類を前進させるからだ。
彼らはクレイジーと言われるが、
私たちは彼らを天才だと思う。

なぜなら自分が世界を変えられると
狂信的にまで信じる人たちこそが
本当に世界を変えることができるのだから。


せっかくだからCM映像を見てみよう。



気分は高揚する。


日本の指導者にThink Different、他と違うチーム作りをする人が現れた時に始めて日本のバスケもレベルが上がるのかもしれない。


Think Different
Just Do It



2013年は何か一つでも違うことをしてみよう!


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参考ブログ:広木隆の「投資の潮流」第27回  アップルのイノベーションの源流
関連記事:全日本女子決勝:いい加減違うスタイル求む
関連記事: 渡嘉敷来夢が目指すべき選手
関連記事:長岡の一年
関連記事:Jimmer Fredette 日本人が目指すべきプレイヤー、彼が目指すべきプレイヤー
関連記事:Dirk Nowitzki(ダーク・ノビツキー)の育て方
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 書評:攻め切る 指揮官 西野朗の覚悟

久しぶりの書評だが、そして年末だが、あえて厳しくいきたい。

攻め切る―指揮官西野朗の覚悟

攻め切る―指揮官西野朗の覚悟


西野朗氏と言えば、知りたいことは絞られてくる

レイソル、ガンバ、ヴィッセルでの不可解な解任
マイアミの奇跡について
ガンバ大阪の強さの秘訣


だいたいの人が以上のことについて知りたくてこの本に手を伸ばすと思うが、
残念ながらどの点についても詳しく触れられていない。
日立製作所のコーチからユース代表のコーチを経てスタートしたキャリアを、
ガンバ大阪時代の終わりまで淡々と描いた一冊である。
しかし、テーマが定まらないため、ただ事実を並べて追いかけているだけで
起承転結がない。
最近どこかで似たような内容の本を読んだなーと思った。
そう、その本も事実を時系列に追いかけているだけの一冊だった。


ネルシーニョ すべては勝利のために

ネルシーニョ すべては勝利のために


ネルシーニョがいかにすごいかを、結果論的にひたすら綴った内容は正直つまらなかった。
コアなファンならシーズンや試合を思い出しながら楽しめるも知れないが、一般のファンには物足りない。
西野氏に関するこの一冊も残念ながら同じ部類に入ってしまう。


まず
レイソル、ガンバ、ヴィッセルでの不可解な解任
について。


レイソルの解任については、正直この一冊の方が詳しく書いてある。

人を束ねる (幻冬舎新書)

人を束ねる (幻冬舎新書)


ただ当時その後ガンバへと移る際に西野氏が、
日立からパナソニックに移っていいものだろうか?
と考えたというエピソードは、
まだまだ実業団の影響が強く残っていたことを伺わせる。
その点でJリーグが近年いかに企業色を払拭できたかを象徴する意味で西野氏の存在は貴重かもしれない。


そして残念ながら本のハイライトにもなり得たガンバの解任劇については特に詳しくは触れられていない。
理由はわからない。
その後のヴィッセルに関しては、出版のタイミングでまだ解任される前だったため、触れられていない。



次に
マイアミの奇跡について
だが、

こちらも内容が薄い。
マイアミの奇跡と言えば、一つの話題作が西野に大きくスポットライトを浴びせた。



中田や前園の攻めたがる攻撃陣、アピールして海外へと羽ばたきたい選手、
その一方で直面する厳しい現実との狭間で葛藤する監督として脚光を浴びた西野だが、
この時の心情や決断、悩みや背景はこの本からは浮かび上がってこない。


この傾向はガンバ時代の描写でも続く。

ガンバ大阪の強さの秘訣

10年も続いた希有なこの一時代の強さの源は残念ながら見えてこない。
外国人選手が10得点取ろうものならすぐに引き抜かれる現状など、
普段あまり伝わってこない点もいくつかあるものの、
どうやってあのプレースタイルに行き着いたか、
その哲学や秘訣、さらには苦労した点などがあまり浮かび上がってこない。
ただ伝わったのは、彼が攻め続けたかったという意志のみ。
しかし何故そうなったのか?
過去に何かトラウマがあったのか?
彼を突き動かしたのは何か?
そしてマンネリせずに10年も続けられた秘訣など本来なら深く知りたい部分は届けられない。


やはりこれが自伝ではないせいだろうか?
より多くの考察、インタビュー、証言が欲しいところなのだが、
ないが故にどうしても薄い淡白な内容となってしまう。
元々西野氏に饒舌な印象はない。
ひょっとするとまだ現役へのこだわりが強いためか、
手の内を見せたくないのかもしれない。
しかし、西野朗を描くということは、やはり解任の真実や、G大阪の攻撃サッカーに深く迫るということではないだろうか?
そこを攻め切れずして西野朗を語れずではないのだろうか?


一方そこを埋めるためか、この本にはカラーの写真がふんだんにある。
確かに西野氏は俳優の西島秀俊や一昔前なら草刈正雄に似ているかもしれない。
しかし、私は彼の外見が好きな女性ファンではないため、残念ながらこれに関しては特に心は動かない。


正月にはいよいよ天皇杯の決勝が行われる。
Jリーグが20年目の成人を迎えるシーズンのフィナーレは、
皮肉にも薄い内容の本で紹介された2人の監督、西野朗ネルシーニョが影響する2チームの戦いとなった。。


残念ながら今回のこの一冊で西野氏の人物像や指導哲学、ノウハウは浮かび上がってこなかった。
仕方ないから、優秀なブロガーとネットの情報を活用して、彼を知るとしよう。
そして天皇杯決勝に備えよう。


西野朗監督の攻撃的サッカーの評判について

【ヴィッセル神戸、西野朗監督解任について一言】

独占インタビュー 西野朗『超攻撃の美学、勝負師の哲学』(前編)

西野朗監督とガンバ大阪 「後一歩が不足し続けた10年間。バランスが取れなかった10年間。」

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日本のスポーツビジネスの現状と問題点について


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 高校ラグビーの危機

高校ラグビーの人気が危機的な状況を迎え始めている。
競技人口とともに、参加校が極端に少ない地区が増えている。



島根県の県予選参加校は2。
高知は3。
福井も3。
山形、香川、佐賀は4。
14地区がなんと1桁台。


反面、愛知は56。
埼玉は52。
神奈川は47。
福岡は46。
この地区はそれぞれ代表枠1を争う。


全国大会の優勝校は1998年から、神奈川、京都、大阪、福岡に限定される。
当然参加校が少ない県の代表は歩が悪いと言われても仕方ない。
ちなみに今年の島根県決勝のスコアは
202対0
毎年話題になる佐賀県の決勝は
185対5


しかし、参加校が多い県も安心していられない。
なぜなら全てが単独チームによる参加ではないからだ。
東京の51校中25校しか単独チーム参加がなかった。
他は複数校による合同チームというのが現状。


ラグビー協会から聞こえてくる改革案として、
花園出場校の数を32に減らすことや、
7人制の普及などが挙げられている。
正直どれもパッとしない。
そもそも参加校を少なくしてどうするのだろうか?


しかし確かに日本のラグビー界には地域格差が生じている。
トップリーグのチームの所在地をみてみよう。


東京
サントリー
東芝
キャノン
リコー


千葉
NEC
NTTコム


群馬
パナソニック


静岡
ヤマハ


愛知
トヨタ


大阪
近鉄
NTTドコモ


兵庫
神戸製鋼


福岡
サニックス
九州電力


これと大学の勢力図を考えればわかる通り、ほぼ関東、関西圏に主要チームが集中している。
群馬のパナソニック、静岡のヤマハ、愛知のトヨタだけいささか孤立している。
ちなみにトップリーグ下のトップイーストトップウェストを見渡しても、
秋田ノーザンブレッツ釜石シーウェイブスなどがあるものの、関東、関西集中傾向は続く。


単純に考えてみて、スポーツとはやることはもちろんだが、
生で見ること、そして実際に対戦する、プレーすることで受ける刺激は強いはずだ。
そうなった場合に、関東、関西、福岡以外の地区はどうしたらいいのだろう?
これこそがラグビーが普及しない最大のボトルネック、問題の根源ではないだろうか?


静岡、愛知、群馬もひょっとすると風前の灯かもしれない。
高校生達が触れる機会が少なすぎないだろうか?
切磋琢磨する相手すらいなくて、試合をしたら200対0、
これでラグビーを始めろと言っても無理があるだろう。


九州なら東福岡は近隣にラグビーをやっている高校が多い。
そして九州電力サニックスと練習試合ができるかもしれない。



大阪なら天理や同志社などの大学のみならず、近鉄神鋼と練習試合できるかもしれない。
その結果学生のレベルが上がり、その後トップのレベルが上がり、世界でも勝てるようになると
人気面でもいい循環が生まれかもしれない。
でもこれが群馬だと同じ図式が描きにくい。


そうなると地域密着型クラブの発想が出てくるのだろうが、
ラグビーは企業スポーツのため難しい。
地域密着型のクラブの発想で行くと、ヤマダ電気の本社が存在する群馬は、パナソニック・ワイルドナイツのスポンサーになるのだろう。
群馬のラグビーチームを支援し、そのユースチームが出来、
地元高校と切磋琢磨、または時に協力して(指導者の派遣など)、
地区大会を勝ったチームが花園に向かう。
こういう未来ができるといいのだろう。
しかし現実ではヤマダ電気が、パナソニックの企業チームを応援したら、
東芝NECは黙っていないだろう。
またクラブチームが全国高校ラグビー選手権に出場資格があるのかどうか?
やはり現状のままでは、どこか無理が生じるのだ。


ラグビー協会ができることはなんだろう?
私は指導者の派遣ではないかと思う。
しっかりとした指導者の数を増やし、ラグビー過疎地区に派遣する。
反対も出るだろう。
学校側とも調整がかなり必要だろう。
しかし島根県代表の石見智翠館も、202対0の試合をするより、
もっと競った試合をしたいのではないだろうか?
佐賀工業も多少骨のある相手を求めていないだろうか?


さらにラグビーは危険が伴うスポーツである。
しっかりとした指導なくして、いきなり全国を争う強豪校と、
吹奏楽部から助っ人を依頼して対戦をする学校との試合は、
安全面でも不安が残る。
この状況を改善するには、良い指導者を派遣するしか手はないと思う。
その数が少しずつ少しずつ増えていって初めてラグビーが根付くのではないだろうか?


これができないのであれば、トップリーグのグラウンド所在地を大幅に変更していかなければならないが、
これは企業に支えられている以上考えられない。


その他の代案としては、Jリーグや欧州のサッカーリーグでも度々話題に上る、
スーパーリーグ構想だろう。
関東、関西、福岡エリアの強豪校ばかりを集め、リーグ戦を行う。
これは学生スポーツの意義、教育的価値に反するだろうから現実性は乏しいだろう。
しかし強化の面だけを考えれば効果はあるだろう。
レベルの高い競った内容の試合を繰り返すことで、選手とチームのレベルは引き上げられていく。
一方でこのスーパーリーグ構想はより特定地区集中の色を強め、普及のスピードを遅くするかもしれない。


どちらにせよ、日本には2019年にワールドカップがやってくるという現実が迫っている。
7年後に活躍しているだろう高校生の現状がこのような惨事であることはかなり危機的である。
しかしだからといって特効薬、即効性のある手が見えてこない。
優秀な指導者の絶対数も問題なのに、
さらに全国に派遣していくとなったら、効果が表れるのは何年後だろう?
そしてそもそも協会にはそのような財力があるのか?
気分が暗くなるばかりだが、こうなったらやはり代表と
エディー・ジョーンズという世界的にもトップクラスの
指導者に期待するのが一番なのかもしれない。
まずはトップの強さが若いラガーマンを惹き付けることを願おう。


エディー・ジョーンズの監督学 日本ラグビー再建を託される理由

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