SB食品廃部と時代の潮流


約60年もの歴史があったそうだ。
1954年の創部。
それ自体がかなりの驚きだが、残念なニュースは突如やってきた。
しかし改めて見ると納得してしまう部分もありつつ、先見の明がもう少しでどうにかなりそうな感もあったのに悔やまれる廃部のニュースだ。
冷たい目で見ると89年より監督となった瀬古氏の采配にかなりの疑問を投げざるを得ない。
日本男子マラソン界の象徴的な人物。
故中村清監督とのアニメ「巨人の星」かのような壮絶な鍛錬というより修行のもと、世界と争った悲運のヒーロー。
日本人の大好きなお涙頂戴、血、汗、涙、努力、我慢の象徴。
しかし指導者との実績はないに等しい。
北京、ロンドン五輪では代表を輩出することができず。
秘蔵っ子だった現早稲田大学駅伝監督の渡辺康幸も現役時代は輝かしい実績を残せていない。
90年代には所属選手が交通事故で亡くなる不運も手伝い、20年以上にもわたって結果を残すことはできなかった。



一方で世界に向けた取り組みも早かっただけに悔やまれることも事実だ。
2001年から実業団駅伝には参加せず、世界に目を向けた個人種目優先の方針を打ち出した。
この英断は高く評価してしかるべきなのだが、結果が伴わなかったことで特に騒がれることもなく、周りに影響を与えるまでいかなかった。
そのため逆に批判の的にもなっただろうし、会社の今回の判断にも影響を及ぼしたかもしれない。
瀬古氏が引退した1988年以降、世界のマラソン界の景色は大きく様変わりしている。


2011年の世界ランキングトップ20は、すべてケニア人で占められていた。
世界には賞金レースが増え、トップランナーがしのぎを削って争っている。
その間日本の実業団チームはガラパゴスよろしく国内で駅伝に目を向けながら、外部からの刺激も少なく自分たちで切磋琢磨している。
高地民族が多いケニアでは、現在陸上が貧しい暮らしからの脱出の最もわかりやすい手段でもあり、またそのためかマラソン活況の地でもある。
主要都市エルドレッドの周辺には標高2000m以上の地で欧米資本のキャンプが10以上も存在する。
そこではトップランナーが若い選手の面倒を見ながら切磋琢磨している。
欧米資本とはプーマを始め、ナイキやアディダスのスポーツメーカーや、エージェント達である。
さらにオランダやイギリスからトップランナーがトレーニングにもやってくるという。
その中にはポーラ・ラドクリフらの名前もあるそうだ。
日本チームが合宿を張ったという話は聞かない。



キャンプでは有力ランナーの発掘から育成、そして生活を支える場として機能している。
この流れは1995年にイギリス人のエージェント、キム・マクドナルド氏がキャンプを設立したところから一気に加速したようだ。
年齢は若い選手では10代前半、その頃からトップの走りを目の当たりにし、トップのエージェントに逆に見られている訳だ。
日本ではどうだろう?
中学生がトップのランナーと実際にトレーニングをする機会はどれだけあるのだろうか?
生活を目の当たりにすることはあるのだろうか?


皮肉なことにこのランニング王国の強さに、日本も陰ながら一躍を担っている。
そう、それは北京五輪金メダリスト、ワンジル選手の存在、古くはソウル五輪で銀メダルを獲得したワキウリ選手が物語っている。
そう、彼らは日本で実業団に所属したことがあるのだ。
ワキウリに至ってはなんと瀬古氏に憧れてSB食品に所属していたのだ。
世界選手権でも優勝を果たしている。
彼らはケニア人に「規律と我慢」をもたらしたといわれる。
ちなみにワキウリ氏は現在日本の那須で暮らしているそうだ。
今こそ彼を媒介にケニアとのパイプ作りはできないのだろうか?
生活を懸けて必死に走っているケニア人の激しい競争を実業団にいる人たちに見せることはできないのだろうか?



一方で、今から世界の潮流を日本が真似したところでとても追いつく気はしない。
まずは日本の水泳界を見習うのはどうだろうか?
日本の陸上界は個人商店ばかりの印象が強い。
かつての水泳界もそうだったが、ナショナルチームをトップにすることを明確にし、各個人商店が手を取り合い始めてやっと強いジャパンの復活があったのだ。
日本の実業団も駅伝で争っている場合ではない。
世界に目を向けて勝負する時が来ているのだ。
でないと経済の波は待ってくれない。
次の廃部の恐れはすぐそこまで来ていると思ったほうがいいだろう。
今日本では空前のランニングブームが起きている。
そこに経済的なチャンスは必ずあるはずだ。
学校や実業団という壁を越えて、世界と戦うランニングクラブの模索があってもいいはずだ。
いずれにせよ、世界の荒波はもう日本を追い越している。


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