全日本女子決勝:いい加減違うスタイル求む


バスケットボールの全日本選手権女子決勝をみた。
ラグビーの大学選手権決勝とせめて違う時間に開始して欲しかったが、ここではスポーツのスケジューリングの拙さについてはあえて書かない。
書きたいのは日本の女子バスケ界の永遠に変わらないスタイルの問題。


まずはJXの圧倒的強さに関しては、褒める以外にないだろう。
ハーフコートの圧倒的なディフェンス力、一人一人の1対1能力の高さ、そしてフィジカル(走力、体力、ぶつかり合いの強さ)能力の高さ、どれもデンソーを圧倒していた。
あまりの圧倒ぶりに内容的に盛り上がらない一戦だった。


気になるのはデンソーだ。
何故にJXと同じスタイルの戦いを挑むのだろうか?
個々のメンバーでの1対1能力の高さの差は歴然である。
唯一勝ち目があるのがセンターの高田。
他のメンバーはシュート力こそ高けれど、総合的な1対1の力は大きく劣る。
その証拠として、厳しいディフェンスと対峙した時に、ゴールに向かっていけない。
むしろカットインすれば、ターンオーバーになる確率がかなり高い。
なぜならカットインとはスピードを上げた状態でドリブルしつつ、相手とのずれを確認しつつ、ヘルプディフェンスも気にしなくてはならない高度な技術を求められるからだ。
この試合に関して、競った状態で点に結びついたカットインはほぼ皆無。
JXの高さとローテーションなどを含めたチームディフェンスは流石だった。
故に攻めきれず、横パスばかりが目立つ。
そしてオフェンスではパスラン中心のモーションオフェンス(オフェンスの名称はあえてモーションとさせてもらった)のため、多くの人数の手を渡れど、ポイントがしぼれないため、そして攻めあぐねるため、責任転嫁のごとく、ただ意図のないまま横へと流れていく。


ここが気になる点だ。
むしろ気に入らない点だ。
豊富の運動量のムービングオフェンスでずれ(フリー)を作ってシュートを打つ。
そのためのスピードと3ptシュート力が日本の武器ではあるが、ディフェンス力の強いチームとぶつかると、ただ走り回っているだけではシュートまで結びつかない。
デンソーの選手はサイドラインからサイドライン、もしくは45度あたりまでとにかくよくダッシュをしたが、それで体力をやたらと消耗してしまっている。
(余談だが、これだけオフェンスでダッシュしていると、先日の全国中学駅伝で女子バスケ部員5人が優勝してしまう理由も頷けそうだ。
日本の女子バスケ界はきっと駅伝をさせたらその才能は間違いなくピカイチだろう。)
それでも日本の女子バスケ界はミニバスから実業団まで皆ほぼ同じバスケを展開する。
これは日本の特徴だから私はこれ自体を否定している訳ではない。
ただ、強者と相対した時に、同じリズムでただひたすらパスランしていては、あまりに無策ではないだろうか?
きっとコーチはこういうだろう。
「もっとディフェンスでプレッシャー」
選手の心の声
「いやいや、もうかなりしてますって。。。」


コーチ
「もっとゴールに向かえ」
選手の心の声
「いやいや、向かうと相手が一歩早くチェックしてくるんです。。。」


コーチ
「ディフェンスからだ!まずはディフェンスからだ!」
選手の心の声
「いやいや、おまえ大神止めてみろよ。。。」
「ゾーンとかできないの?あっそうだ、根性とディフェンスだからマンツーマンしか教わってないんだ。。。」


さすがにWJBLまで行くとここまでひどくもないだろうが、全国の中高生でこう思った事ある人はかなり多いんじゃないだろうか?



ではどうすれば良いだろうか?
私がデンソーであれば、ハイポストを活用したオフェンスに切り替える。
一昔前だが、アメリカで大人気となったプリンストン・オフェンスを勧めたい。
プリンストン・オフェンスとは、ハイポストとバックドアカットなどを中心にした、アメリカのプリンストン大学(日本で言う東大のような存在)のピート・カリル元ヘッド・コーチが発案したオフェンス。


賢者は強者に優る―ピート・キャリルのコーチング哲学

賢者は強者に優る―ピート・キャリルのコーチング哲学


このオフェンスでプリンストンは何度か全米大学選手権で歴史に残る番狂わせを実現させており、そのコーチングを買われたカリルはキャリアの最後はNBAサクラメント・キングスの黄金時代(ウェバー、ビビーなどが活躍していた頃)をコーチとして手伝っている。
NBAの選手の基礎があまりになっていないので、最後の方向として基礎を教えにいったとも言われている)
ちなみに当時のキングスとファイナルに何度も進出したネッツもこのオフェンスを使用していた。

プリンストン・オフェンスの参考動画をまとめてみた。






どうだろうか?
少なくともオフェンスはかなり効率的になると共に、高田の強みを活かせるのではないだろうか?
これでオフェンスでサイドラインからサイドラインに一生懸命に走るよりも、ディフェンスに体力を使えるのではないだろうか?


ちなみに、実は現在日本にある意味このプリンストン・オフェンスの最大の理解者、いや最大の被害者が存在している。




現在パナソニックで活躍する、チャールズ・オバノン選手だ。
彼はその前の年にUCLA大で兄エドと共に優勝した翌年、全米大学選手権の1回戦でこのプリンストン・オフェンスに手痛い敗退を喫している。
この試合はアメリカではあまりにも有名で、伝説の一戦として語り継がれている。
日本で言えば、インカレで東大が青学に勝つようなものだ。


プリンストン・オフェンスはあくまで一例である。
他にも適したオフェンスはいくらでもあるだろう。
何が言いたいかと言えば、バスケットの戦術は千差万別。
NCAAの試合を見れば、本当に色々なセットプレイやシステムを見る。
ヨーロッパのバスケもしかり。
最近は24秒の短さからから、即シュートに持ち込みやすいピック&ロールが主体のNBAではあるが、これは1対1能力が高いから偏りが生まれるだけの話だ。
ところが、前述の通り日本では下から上までみな同じスタイル。
パスしてラン。
パスしてラン。
もちろん細かいところではいくらでも違いがあるのは理解できる。
ただ大筋では同じ。
これではジャイアントキリングは難しいのではないだろうか?


今はデンソーとJXの関係でこのスタイルについて述べたが、これが今度はJXとアメリカのチーム、日本代表と中国、日本代表と韓国と置き換えても同じ現象が起きる。
現在女子の日本代表監督のポジションについてはモメにモメている。
アトランタオリンピックの監督でもあり、現在の中川代表監督を解任する件で訴訟問題に発展しそうだ。
解任の理由は、前回程の指導力が見えないからだとか。。。
でも前回とほぼ戦術が変わらないのに選手の質が落ちていたとするなら???
そして後任はJXの内海監督。
こちらも基本的にはスタイルは同じ。。。
日本のバスケは1970年代に栄光を極めた銀メダルのスタイルを永遠に追い求めていくのだろうか?
もしそうだとするならば、かなり1対1の養成に力を入れない限り未来はないだろう。
わかりやすく言えば、全員大神なみのオールラウンドスキルが必要になる。
イメージはコートを5人のスコッティーピッペンが走り回るスタイルだろうか?



しかし部活中心の育成の国で、1対1を中心とした指導は可能なのだろうか?
厳しいのであれば、違う道を探ってもらいたい。
少なくとも同じ事をやって今のJX王国の牙城を簡単に崩せるとは思わない。
一種のガラパゴス現象だ。
決勝をみて、日本の女子バスケに未来を感じられなかったのは私だけだろうか?


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プリンストンスタイルオフェンス (Basketball Coaching Series)

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