書評:ゴールの軌跡―釜本邦茂自伝



もうかれこれ35年前近くの本である。
多くの人が彼をサッカー協会の過激派もしくは根性論推進派と思っているのではないだろうか?
確かにガンバの監督としてはサッパリで、代表のFWをよくバッサリ斬ることでスポーツ新聞にヘンな取り上げられ方をするし、決してしゃべるのがうまそうでもない。
でもこの本を読むとそんな彼の印象もちょっとは変わってくる。
本の後半はあまりの駆け足ではしょっている部分が多いものの、とても参考になる本である。

日本サッカー伝説のコーチ、クラマーの指導を受け、オリンピックのメダル獲得に貢献、ユーロ2004でも再びスポットライトを浴びたエウゼビオと実際に対戦し、彼からシュートのコツを盗み、さらに現役時代のペレとも直接対決している。
また、杉山隆一とともに、ヨーロッパのプロクラブからも誘われているし、短期のドイツ留学もしている。
そもそもこんな経歴の人はいまだにいない。
また、最近は洗練されているサッカー協会の中で、古い根性論派の代表みたく思っている人もいるかと思うが、なかなか合理的だし、現在の代表FWに必要とされている事を既に30年前から彼は伝えている。
少し変わったのもあるが、幾つか見てみよう。

・中学時代、学校の帰り道に道端の石を何気なく蹴ってみたところ、あらぬ方向に飛んでいった。
石の中心を正確に蹴ると石は思った方向に飛んでいく。
それをサッカーのシュートの時に応用した。

・中学時代から「シュートをすることだけ、点を取ることだけ考えろ」と言われて育った。
その結果高校からは「ワクが見えたら」打っていた。

・大学には「型」があったほうが有利と考え、ペナルティーエリア右40度からのシュートを徹底してマスターした。
本人曰く「目をつぶっていても、ゴールの左隅に突き刺さるようになるまでに、そう時間はかからなかった」そうな...

・大学時代からはクラマーコーチの教えも受けながら、エウゼビオを始め、当時としては多くの国際経験を通じて日本のエースになる

・そんな彼の信念は、「まずは自分」。
「自分の与えられた仕事を十分に果たす」ことがチームワークにつながると。


日本代表の得点力不足、FWの決定力不足はかれこれこの15年程常に言われてきたこと。
それは技術的な面もさながら、メンタル面が特にクローズアップされてきたように思う。
サッカー協会はその対応策として、ジュニアレベルでFW合宿などを開いたりしたが(その成果などの報告や継続性についてはあまり聞こえてこないが...)、この本こそ教科書にしてみるとおもしろいかもしれない。
一番点を取った日本人をきちんと検証しないで、得点力不足を解消するのも無理な話だろう。
いくつか時代遅れなエピソードももちろん含まれてはいるが、そこはご愛嬌ということで大目に見よう。
前述の通り、本の後半は駆け足で進むため、内容が薄くなっていくが、それを補うだけのものがある。
また、この本を通して、彼の実直だが表現下手な一面も見えてくるという意味で、今こそ現代のサッカーファンが読むと価値があるのではないだろうか。




関連記事:書評:ほまれ
関連記事:書評:これからの「日本サッカー」の話をしよう 旧ユーゴスラビア人指導者からの真摯な提言