書評50: フットボールサミット第4回 カズはなぜ愛されるのか? ―いままで語られなかった「三浦知良」論―


フットボールサミット第4回 カズはなぜ愛されるのか? ―いままで語られなかった「三浦知良」論―

フットボールサミット第4回 カズはなぜ愛されるのか? ―いままで語られなかった「三浦知良」論―


私には衝撃の人物だった。
いや、それはカズ以上にその父親が...


King Kazu こと三浦知良については、語り尽くされた感が世の中にはある。
最近では人間としても円熟味を増し、マスコミも何かと言えばご意見番のように、プレーのことそっちのけで社会ネタでもコメントを求める傾向にある。

若くしてブラジルに渡り、凱旋帰国をし、日本サッカーを世界地図に載せ、ワールドカップを現実的な視野に入れる事を国民にもたらした男。
そしてドーハの悲劇セリエA初のアジア人選手、ワールドカップ代表漏れ、再び欧州へ、そして現役最年長Jリーグ選手としての活躍。
誰もがこの辺りは容易に思い出す。


しかし、このブラジルに渡る前と、渡った時のストーリーを知る人は少ないかもしれない。
本書の最大の価値で最大の衝撃はそこにあると私は思う。


第2回フットボールサミット同様、この本は複数のライターの構成によって成り立っている。
そのため重複する部分もあり、時系列で読む事を求めている人は混乱するという意見もあるが、そこはたいした問題ではない。
また、中田の時と同様本人のインタビューが掲載されていないが、これは中田の時と違い、仕方ないものと思われる。
中田の場合は、Take Actionの活動等、Jリーグと抱えている現在進行形の問題などがあってインタビューが実現されなかったと思うが、今回はある家族の壮絶な物語の部分である。


三浦知良の父の名は、納谷宣雄という。
兄の泰年曰く
「一番尊敬できない人物であり、一番尊敬できない人物だ」
この父なくしてKing Kazuの伝説はなかったといえる。
66年にツアーに申し込んでワールドカップを実際に目の当たりにしたこの男は、その後日本初のサッカーショップを開いたり、ナイトクラブも経営したり、少年サッカーチームを作ったり、代表の応援で当時反日感情高まる韓国に行ったり、さらにそこでサッカーボールを作って輸入して売ろうと試みるなどとにかく豪傑、天衣無縫な人物であった。
しかし薬物所持疑惑で逮捕されると、離婚をし静岡を離れる。
カズと泰年は母方につくことになる。
しかしその後カズのブラジル渡米の意志を聞くと、単身準備のためにブラジルに乗り込む。
そこで土産物屋などで働きながら、情熱と片言のポルトガル語で受け入れ態勢を作る。
途中お金を工面するために、ブラジルのリーグの試合の放映権を日本のテレビ局に売ったり、やがて選手の代理人を果たし、日本へブラジル選手を来日させるキーマンともなる。
そしてカズの保有権(パス)を預かる人間として、その後カズのキャリアを築くのに大きく貢献している。


これこそが、インタビューが実現しなかった理由だと思う。
あまりにも重い、厳しい現実を乗り越えた親子の話がカズ伝説の裏側にはあったのだ。
これがあまり語られない本当のカズ伝説かもしれない。


そして本はその強烈なイントロから、ブラジル時代の苦労話からヴェルディーでの話、そして彼が円熟味を増していくきっかけを追いかけていく。
ヴェルディーからの彼を知る人は思い出が走馬灯のように甦る事だろう。







人間カズのラテンの部分と浪花節の部分が混じった魅力の原点がよくわかる一冊であったと同時に、あまりに魅力がありすぎてもっともっと知りたくさせる一冊であった。

44歳のストライカーに、指導者は似合わないと登場する人全員が口を揃える。
ブジラルでクラブ経営してもらいたい想いも登場する。
来年の今頃カズはどこで羽ばたいているだろうか?
そして10年後、20年後のカズはどうしているだろうか?
想像するだけでも楽しいものだ。




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