133万円の強化事業費


第93回全国高校野球選手権大会の3回戦が行われ、秋田県代表の能代商業が惜しくも延長12回で広島の如水館に敗れた。


夏の甲子園でこれまで秋田県勢は13年連続で初戦敗退を喫しており、青森と山形のワースト記録と並んでいた。
昨年1回戦で鹿児島実に15−0で負けたことも危機感を煽り、スポーツ振興の議題で県民の関心の高い高校野球が県議会でテーマに挙ったようだ。
佐竹知事の「高校野球にかける県民の思いは非常に強い。金もかけて手だてを打つべきだ。予算に反映させるようにしたい。」という発言もあり、133万円の強化事業費がついた。


県はその133万円で何をしたかというと、スポーツ科学研究者や全国制覇経験のある元監督などを招いて、様々な角度から指摘・指導をしてもらうことにしたそうだ。
その成果あってか、今年の秋田代表の能代商は見事初戦も突破し、もう少しで8強というところまで進んだ。


スポーツに県の予算がついたことを私はとてもいいことだと思っている。
しかしながら、気になる点もいくつかある。
まずはこのプロジェクトをまとめる県教委の発言。
「負け続けるのはどこかに問題があるから。勝利至上主義ではないが、スポーツの目標は勝つことだ」
この人は大至急NZのど田舎に送り込んで地域に必ずあるラグビーのクラブに所属してもらいたい。
そこでスポーツの本当の力を知ってもらいたい。
その上で何故勝利を目指すのか理解してもらいたい。
「スポーツの目標は勝つことだけ」だと思っているのは、スポーツの真髄を知らない頭でっかちな役人の言葉だ。


もちろん反対の声も秋田に存在しているようだ。
「強くなりたかったら、いい選手を一校に集めればいい。」
ごもっともな意見だろう。
県が特定強化校を指定すれば済む話である。
先の役人がいうことは、こういうことである。


さらに、
高校野球の趣旨に反する。県がやるべき仕事ではない。」
といった内容の反対意見もある。
至極真っ当な意見である。
実はこれが、今回最も引っかかる点だろう。
確かに県で強化費をつけたところで、高校の野球大会に勝てたからといって、秋田県に何が残るのだろう?
強化された選手はプロに行けると約束される訳でもないし、甲子園はある種のお祭りだから、次の年まで県民も忘れてしまう。
それに県民のお金を注ぎ込んでいいのか?


私は前述の通り、スポーツに県の予算がついたことはとても喜んでいる。
しかし今回の場合は、前述の県教委などの言葉もあって、打ち出し方が悪いと思う。
もう少し違った打ち出し方をすれば、みんなが納得できたのではないだろうか?
例えば、その招いた人たちで強化マニュアルを作成するとか、県の全中校野球部を巡回してもらって安全指導(肩・肘の使い方、練習方法)プラス技術指導をしてもらうとか。
一番はおそらく指導者への指導だろう。
県の全中高野球部監督に来てもらって、良い指導方法をみっちり叩き込む。
もしくは将来秋田県からプロ野球に参入する計画かなにかあればまだマシだっただろう。
とにかく何か後世にも残るものを行った方が良かったのではないだろうか?
でなければ、県知事も変わった30年後にまた初戦13連敗を喫しているかもしれない。
その時にまた県の予算をつけるのだろうか?

今年の前に秋田県が甲子園で初戦を突破したのは、1997年。
現ヤクルト・スワローズ所属の石川雅則投手擁する秋田商がソフトバンク・ホークス所属の和田毅投手擁する浜田高校を破って以来勝利から見放されている。
(今回の能代商のエースの保坂投手も変化球主体の左腕だったことも何か運命的なものを感じる。個人的にはどちらかというとオリックスの星野投手を彷彿とさせたが)
同じことが繰り返されないように、そして県民にも喜ばれるように、スポーツにかける予算は慎重にそして残るものであることを祈りたい。

逆に今回能代商が活躍したことで、この予算も来年以降つけやすくなるだろう。
ある意味正当化されたはずだ。
毎日15−0で負けたスコアボードを練習場に貼って練習した甲斐がある。
それを逆手にとって、勝利至上主義だけではないスポーツの力を育む活動を秋田県には期待したい。
なぜなら今回のケースを機に、他の件もスポーツに予算をつけるかもしれないから。





参考文献:8月2日付け朝日新聞

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