書評:和田の130キロ台はなぜ打ちにくいか


福岡ダイエーホークス和田毅とトレーナー土橋恵秀の成長と成功の軌跡

和田の130キロ台はなぜ打ちにくいか (講談社現代新書)

和田の130キロ台はなぜ打ちにくいか (講談社現代新書)

タイトルだけを見ると、野球の技術書もしくは130キロ台のストレートで何故空振りを取れるのかを解明する学術書のような印象を受けるかもしれない。もちろんそういった部分にも触れているが、むしろより専門家の意見が欲しいくらいだった。

それよりこの本で一番印象を受けるのは、こういった和田のような選手(学生)がもっといて欲しいなということと、残念かな大学スポーツのサポート体制の未熟さである。
和田毅という学生が自分の才能を導き出してくれるトレーナーと指導者にめぐり合えたのはある種偶然かもしれないし、もしくは和田毅という真面目に何事にも取り組む人間だったからこそ逆にそのような人たちにめぐり合えたのかもしれない。
どちらも真実ではあるのかもしれないが、この本の読みどころは、和田とトレーナー土橋の二人三脚の成功物語だと思う。

和田は幼い頃から体が小さく、素質に恵まれた選手ではなかった。
しかしその負けず嫌いな性格と実直に取り組む姿勢によって、高校時代はピッチャーで甲子園を経験するだけの持ち主にまでなった。
しかし松坂世代の彼は、当時の主役と比較すると目立つ存在ではなかった。
むしろ松坂のボールを見て感心するほどで、当時はまさか自分が同じ舞台で彼と争うとは夢にも思っていない。

早稲田大学に進学後も和田は期待される選手ではなかった。
129キロのストレートと共に挫折する手前の彼が出会ったのは、学生トレーナーの土橋であった。土橋は和田に「140キロは出るぞ」と伝えるところから二人の物語はスタートする。
フォームの改造、股関節をはじめとする体の動きの改善、そして何より当時の監督、野村氏も和田の可能性を見出していたことが大きかった。
メキメキ進歩を遂げた和田は六大学の奪三振王にまでなり、その後プロへと進み現在に至る。
そして和田と土橋の関係はその後も続き、トレーナーの専属契約を結んでいる。

この本のいいところ、興味深いところは、内容がここで終わらない点である。
巻末に和田の卒業論文が掲載されている。和田がどれだけ真剣に競技の事、パフォーマンスのことを考え、いかに勉強したかが表れている。
この本を通して和田の真面目な実直な姿勢描かれているが、その集大成がこの論文のような気がしてならない。
そもそもプロ野球選手で真面目に卒論を書いた選手が何人いるだろうか?
プロの選手で、体得した技術や経験を何人が言葉に記せるだろうか?(根性論以外に)
和田毅はきっとプロ野球を引退した後も、セカンドキャリアは問題ないだろう。そんな安心感を得られる本であると同時に、一流選手はインテリジェンスも兼ね備えているものだと改めて認識させられる本であった。

もう1つ気になった点は、やはり大学スポーツの環境の未熟さである。天下の早稲田大学といえども、和田を助けたのは学生トレーナーであった。
たまたまそれが良い方向にいったから良かったものの、きちんとした教えを受けていない独学の学生トレーナーは全国に山ほどいるはずだ。
彼らは必死に勉強していたとしても、もし仮に何か怪我や事故が起きた場合には悲惨なことになる。
もちろんその対象となった選手もしかりだが、選手を見ていた学生トレーナーに与えるショックも並大抵のものではないはずだ。
責任を取りたくても取れないはずだ。
有能な未来のトレーナーの将来を潰しかねない。
トップレベルの選手と怪我は隣りあわせだ。
それを大学側が見てみぬ振りをしている現状のレベルの低さが残念ながらこの国のスポーツ文化のレベルの低さを表している気がしてならない。
本来ならば現在の土橋トレーナーは早稲田に雇われてしかるべきではないだろうか?怪我の確立を減少させれば、治療代やテーピング代などの経費がセーブされる。
そしてなおかつパフォーマンスが向上する。
このような意識と責任を学校には持って欲しい。

少し脱線したが、タレントの仲根かすみと結婚し、パパにもなった和田投手。色々な意味で注目される今後だが、そんな彼を応援したくなるような一冊であった。
彼のような選手が今後増えていくことを期待したい。



球の出所が見えにくい投球フォーム



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