書評:渡邊恒雄 メディアと権力

渡邉恒雄 メディアと権力 (講談社文庫)

渡邉恒雄 メディアと権力 (講談社文庫)


渡邊恒雄は現在巨人軍の人事問題及び清武元GMとの確執裁判で話題の人物。
スポーツ好きにはジャイアンツ有利にプロ野球界を扇動する悪しき象徴。
ジャイアンツファンにとっては必要悪的な存在。
その傲慢な発言と読売新聞のトップで各界への多大なる影響力の持ち主として何か不気味な存在として映っているだろう。
しかし、実際にどれだけの人がこの人物のことを把握しているだろう?


8歳で父親を亡くし、学生時代にエリート的挫折を味わい、反逆児的な気性の激しさを持ちつつも成長し、大学に入ってからは共産党員として活動。
しかしそこでも追い出される挫折を味わい、その劣等感と攻撃性は彼を運命的な方向へと導いて行く。


当時2流の新聞社、読売新聞にしか就職できなかったことが、運命のいたずらだったのかもしれない。
社会部が幅を利かせていた時代にまずは読売ウィークリーの記者からスタートし、政治部に異動してからは出世街道を切り開くどころか、とんでもないキャリアを積むことになる。


大野伴睦(後の副総理)の番記者となり、自民党政治に思い切り食い込み、韓国国交正常化に一役買い、その影響で各新聞社の政治部記者を牛耳り、ついでは親交のあった中曽根康雄を総理にまで導くキーマンとして活躍。
途中出版社経営にも首を突っ込み、あえなく失敗しているものの、いかに働いていたかが伺われる。
その他読売新聞社の現在の本社がある土地の払い下げを当時の政府から読売にまわすよう交渉したり、大物右翼児玉誉志雄と関係を持ち、政治の裏舞台を仕切ったり、そしてロッキード事件でも彼の名前は取沙汰された。


つまり、大物中の大物なのだ。
日本の近代昭和史の黒幕と言っても過言ではない。
途中ワシントン支局長として3年半アメリカで暮らしているが、そこではいない間でも出世コースから外れないよう昼夜時差関係なく日本とも連絡を取りながら働いたようだ。


その結果、アメリカでスポーツと触れた形跡はほとんどない。
野球で言えば、セカンドとショートの違いもおぼつかないようだし、ルールもとんちんかんのようなだ。
江川の空白の一日事件でも仲介役として登場し、阪神にトレードされる小林氏を説得しに登場したが、顔さえわからず、途中まで後見人を一生懸命説得していたようだ。
こんな人生を送ってきた「巨魁」が、まともに球団経営に興味を持つはずがない。
彼は現在裸の王様といえるかもしれないが、その圧倒的な権力で周りを怯ませて行くその迫力は健在だ。
それはスポーツがもたらすものと相反するものだ。
その究極の例が、Jリーグに彼の論理が勝てなかったことだろう。
別リーグ創設という脅しがJリーグには通用しない。
何故なら世界的な規模の権力者、FIFAがその先の道につながって存在しているから。
ワールドカップという世界の祭典がその先にはあるのだ。
したがってそのグローバルな大規模な大会、夢、目標は、読売新聞と自分の地位を守る保身では崩せない牙城なのだ。


しかし一方で日本の政治の裏フィクサーをしていた、巨大メディアのトップに地域密着やら球蹴りの興奮を理解してもらうのは苦しいだろう。
スポーツファンはその部分を理解して、彼の言動を見て行くと妙に納得するだろう。
この人物像を理解する上で、すばらしい一冊。



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