目標達成のプロセス なでしこ力

なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう!

なでしこ力 さあ、一緒に世界一になろう!


先日ひょんなことからなでしこジャパン佐々木則夫監督の講演を聞く機会に恵まれた。
講演のタイトルは、

「目標達成へのプロセス」
〜チームワークとコミュニケーション〜

飾らない朴訥な人柄とジョークを交えたトークの中に成功のエッセンスが含まれたとても楽しい時間であった。
佐々木監督の話を総合すると、コーチとは選手を馬車に乗せてゴールへと運ぶ役目であり、乗せる選手がいて始めて成り立つものだということ。
そこからスタートした彼の哲学とは、コミュニケーションの質を高め、意志とハートの疎通を図り、自ら考えられる集団こそが、サッカーというスポーツの性質上勝利へと近づけるというもののようだ。
なので戦術の話はそれほど出てこない。
いかに目標を意識した、身体能力も人間性も高いチームをコミュニケーションの質によって作れるかが焦点のようだ。


とは言え、女子サッカー界を見渡した場合、身体能力にモノを言わせたサイド攻撃は世界にはあれど、ミッドフィールドの展開力は各国あまりないという点に目をつけて、ディフェンスの追い込み方を世界の定石である中から外へというものとは逆の戦術、外から中へプレッシャーをかけた点は興味深かった。
実は戦術を教え込むレベルもやはり高いのかもしれない。
しかし彼に言わせると、コミュニケーション力が高いから、浸透して選手の理解度と実戦できる力が高いということだけなのかもしれない。


就任当初彼は決めなければいけないことが5あるとすれば、佐々木監督はほぼ4決めて、選手や他のスタッフに1だけを決めさせていたそうだ。
しかしそれも1年半後には2:3くらいの比率になっているそうだ。
北京五輪でなでしこはベスト4に入る訳だが、ここでの差はなでしこがベスト4しか目指していないのに対して、他国は優勝またはメダルを目指していた事だったと彼は言う。
そしてそこからワールドカップ優勝という目標に切り替える訳だが、その目標を立てたのは選手だという。
優勝後の大騒動のまま突入したロンドン五輪予選では、コンディションの悪化と過密日程から戦術の大幅な変更を決断している。
普通チームは戦術を180度変換すると動揺が走るものだが、高いコミュニケーション力のおかげで、冷静に自分たちの現在の実力を認識して選手は挑めたらしい。
「選手が大人になった結果」と佐々木監督は表現した。


ではどうやってコミュニケーションの質を高められるか?
佐々木監督は「問答」をすることの重要性を唱えていた。
彼本人はそれを一番難しい家庭でも実戦して質を高めたようだ。
「どう思う?」
「大丈夫か?」
「嫌なところあった?」
最初はなんでもいい。
家庭では一番煩わしいと思うかもしれない。
しかし飾らずに心を開いて問答をこなしていけば、お互いの考えていることの理解、そして意志の疎通が関係性を発展させる。
そのためには、テクニックを身につけるべくコミュニケーショントレーニングもなでしこは実際に行ってきているそうだ。
そして試合で勝てるコミュニケーションにすべく、チームとして動く日頃の中から今度はコミュニケーションの質を絶えず問答していたそうだ。
その結果か、ワールドカップでもポジションチェンジの相談を選手からしてきたり、選手の意向で作戦を修正したり、方針を変えたりする事もあるそうだ。
意志の疎通が取れているが上に、へんにかっこつけたり、プライドが邪魔したりすることがないようだ。
自然とベストな選択に向けて聞き上手になっているのだろう。
本人の言葉で紹介すると「横から目線」。


こうしたベースがあるからこそ、佐々木監督のこういった言葉もより活きてくるのだろう。
「成功の反対は失敗ではない。成功の反対はトライしないことだ」


なでしこの選手は、とにかく自分の長所を思う存分ぶつけて、自分の力を表現する事ができるのだろう。
実はこの言葉こそが、無駄なプレッシャーと無縁だったように見えたあの明るいなでしこ達のパワーの源だった気がする。
つまりやるべきことがわかっている上に、自分たちで決めている事も多い以上責任感も強い。
大人な集団だということなのだろう。
その上そのやるべき事を信じているからこそ迷いもない。
よくワールドカップやオリンピックに棲むと言われている魔物に負けてしまう日本人アスリートが多い中、彼女達の笑顔とパワーがそれすらも寄せ付けなかったことも頷ける。
そして大人だからこそこんな指針も生まれるのだろう。
なでしこらしさとは、

ひたむきさ
芯が強い
明るい
礼儀正しい


ことだそうだ。
ワールドカップで日本は世界で初めて優勝とフェアプレー賞をダブル受賞している。
精神的に自立した集団だからこそ成し遂げられた誇るべき偉業だろう。


ちなみに決勝で戦った相手、アメリカの女子サッカーの競技人口は約160万あるそうだ。
日本は3万7千人。
昔あった映画「300」みたいな話だ。
佐々木監督本人が最も気にしていた点として、これが一過性のブームで終わらないようにする事。
そのためにロンドンも優勝を目指していくと。
「なでしこ力」はワールドカップに行く前に書かれた本である。
しかしイントロにはばっちり「世界の頂点に立てると本気で感じている」と書かれている。
戦術論が花盛りのこの国で、コミュニケーション論で一度指揮官を検証してみるのも面白いかもしれない。
幸い今の日本は男女共に長けた指導者に恵まれていると言えよう。
そして何より輝かしい実績があった訳ではないこの人物をみつけることが出来たことが恵まれている。


最後に佐々木監督の言葉だが、「高揚を図る」。
彼の人生となでしこのチームは絶えず高い目標へ向けて、揺るぎない決意で高揚を図ってきたからこそ、等してもチームとして成長し、あのような結果を残せたのだろう。
まずはロンドン五輪だが、その次の佐々木監督のキャリアも想像しだすとたまらない。
男子の監督をやるだろうか?
Jリーグのチームだろうか?
はたまたアメリカの女子代表監督とか!?
まだまだ日本になでしこ力が伝わり影響する事を期待しよう。





おまけ
講演の最後の質問コーナーで海堀選手のPKについて質問があった。
佐々木監督の裏話として、アメリカは前のブラジル戦でPKを蹴った選手を同じ順番で並べてきたが上に、同じコースに蹴ってきたそうだ。
ここでも彼女達はプレッシャーに押しつぶされずに最善の準備で挑める事ができたのだろう。
むしろプレッシャーに押しつぶされたのはアメリカだったということだろう。



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