マネーボール鑑賞:映画はスポーツを育てるのに利用すべし


マネーボールを映画館で観てきた。
大人の映画ではあるかもしれないが、いい出来だった。
しかし、スポーツファンがこの映画を観に行っていない様子が残念でならない。
その部分を語る前に、まずは映画の内容から。


原作と違う点がいくつかあり、コアなスポーツファンがその部分をどう捉えるのかは正直わからない。
私が気付いた点をいくつか。
まず原作にはビリー・ビーンGMと娘のエピソードはほとんど出てこない。
家族構成には触れるものの、やはり映画はエンターテイメントなだけにハートウォーミングなエピソードを入れて感動を臭わせてお客を呼ぼうとする必要性はあったのだろう。


また映画という限られた尺があるだけに、データ分析の部分はほぼバッター中心にストーリーが進められ、ピッチャーの部分の説明は割愛されている。
これは物語のクライマックスをA'sがシーズン中20連勝した部分においているために、バッターのHattesburgにクローズアップしている構成になっており、仕方のない部分なのだろう。


そして最も大きな違いは、架空の人物Peter Brandだろう。
元々は実在の人物、Paul DePodestaがベースとなっている。
DePodesta氏はA'sでのサイバーメトリックス分析で有名になり、その後ドジャーズGMなどを経験し、現在NYメッツの育成とスカウト部門のバイス・プレジデントとなっている。
この映画の製作にあたり、実名を使うことに同意しなかったものの、協力はするとのことで、今回のPeter Brandというキャラクターが生まれた。
映画の中でPeter Brandはイエール大学卒となっているが、実際のDePodesta氏はハーバード出身だったり、メガネはかけているものの、Peter Brandほど太ってもいないようだ。


マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男

マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男


さてストーリーだが、当然原作はあるし、ビリー・ビーン氏もまだ健在なだけに、実話にほぼ忠実に沿って淡々と進められていく。
そのテンポは途中フェイスブックの創設者、マーク・ザッカーバーグの半生を描いた「ソーシャル・ネットワーク」をみているような感覚に陥いるほど似ていた。
後で調べてわかったことだが、脚本家が同じだということを知った。
なのでストーリーはゆっくり静かに流れ、抑揚はあまりないものの、大人の充足感を得て終わる。
途中試合の描写がちょっと長すぎると感じることもあるが、完全な野球映画ではないし、誰でもそれなりに楽しめるだろう。



さて、ここからがどちらかというと本題。
この映画の本質は、一人の男が業界の慣習、伝統、ルーティーンを破り、常識と違う道を勇気を持って進んでいくところだ。
ビリー・ビーンはPeter Brandを信じ、そして一度信じた道をとことん進むことでチームが生まれ変わり、貧乏球団でも巨人に勝てることを証明する。
つまり、これは野球映画でもなければ、ビリー・ビーンの自伝でもない。
強い信念をもとに環境を変える男の話である。
それは誰の人生にも置き換えられる葛藤を打ち破った人の物語だ。
娘とのサイドストーリーははっきり言って重要ではない。
物語後半、ボストンレッドソックスのオーナーが彼を口説く場面、あそこに全てが凝縮されていると思う。
正直魂が震えた。
淡々としたテンポで進められる物語であるにも関わらず。
サラリーマンなら誰でも変革の難しさの葛藤を感じたことはあるはずだ。
ところが、、、、宣伝からはそれがイマイチ伝わってこない。
いや、娘との感動秘話を匂わせたり、試合のカタルシスを匂わせたりするから曇るのだ。



「ブラビの野球映画」
これが大衆の認識ではないだろうか?
これだと、ブラピファンとちょっとの映画ファンにしか刺されないのではないだろうか?
コアな野球ファンは怪しむかもしれない。
実際劇場の観客は残念ながら少なく、35歳以上の人ばかりが目立った。
また男性一人客も多かった。
ほぼ同時刻にカイジ2たる映画が終わったのだが、中高生ぐらいの若者が大挙押し寄せてきた。。。
正直マネーボールを観たほうが何倍も彼らの人生のためになるとは思うのだが、それが現実だ。


数年前インビクタスという映画があったが、同じような展開だった。
大衆の認識は、

クリント・イーストウッドがつくったラグビー映画」

だったのではないだろうか?
しかしこちらも同じで、この映画もラグビー映画でもなければ、マンデラの自伝でもない。
この映画の本質は、人生七転び八起き、倒されても倒されても強く信じて進んでいけば、いつかブレイクスルーがある。
その一点だ。
そしてそれを表現するのにラグビーは最も適したスポーツだろうし、しかも実話の奇跡の物語であったということだろう。
ウタマルさんもそう解説している。

ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル:シネマハスラー


何が言いたいかと言えば、宣伝で本質が曇らせたからといって、スポーツファン、野球ファン、ラグビーファンが映画館に行かないのはナンセンスだ!
引いてしまってはいけない。
洋画であるならば、本質的にただのスポ根映画だったり、ブラピがちゃらちゃらして野球を冒涜する内容だったり、ブザービートのようなテレビドラマである確率は低い。
是非映画館で観てもらいたい!


私はインビクタスを幸運にもラグビーマガジン主催の試写会で観ることが出来た。
トークショーもついており、そのゲストは現日川高校ラグビー部監督、あの南アワールドカップ日本代表、オールブラックスとの悪夢の145失点の試合でトライを決めた梶原宏之先生。
彼は練習を休みにしてでも部員を映画館に連れて行くと言っていた。
その心意気である。
私はその後感動してお金を払って再度映画館に観に行った。
当時のワールドカップ決勝の舞台にいるかのような臨場感はたまらなかった。


宣伝にごまかされてはいけない。
たかだか映画だろ、とかビデオで出るのを待つというように排他的になってはいけない。
スポーツが題材の映画(洋画でドラマ限定、コメディーは別ということで)が出たら迷わず観に行こう。
なぜなら、それがスポーツにいい形で返ってくるからだ。
映画館で感動を覚えた人はスポーツ観戦をしてくれるかもしれない。
スタジアムにお金が落ちれば当然それは強化につながる。
(協会がまともであれば)
ファンが増える。
メディアに取り上げられる。
もちろんその映画が大ヒットしたならば、テレビ局も金曜ロードショー日曜洋画劇場で放送するだろう。
そうなれば市民権を得ることとなり、ファンが増える確率はもっと高くなる。


それなのに、インビクタスマネーボールもどうも成績が芳しくないようだ。
一体日本全国の部活の先生は何をしているのだろう?
へんにいばったり効果のないスパルタ指導をしてしまっているようならば、梶原先生のように部員全員を映画館に連れて行った方がはるかに効果が上がるだろう。
ラグビーに至っては、この映画を利用し尽くさなくてどうする!と思う。
2019年はもうすぐそこだぞ!
スポーツファンはエンターテイメントに対して排他的になるのではなく、本質を見抜いて、逆に映画を利用して愛するスポーツを育てるぐらいの気概が欲しい。
これらの作品が多くの人に観られないまま終わってしまうのは、スポーツファンとして悲しい。
必ず得るものはあるはずだ。
そしてスポーツに興味ない人やライトファンを誘っていって欲しいものである。


ちなみに、ラグビーファンにはたまらないサイトを映画インビクタスは残してくれていました。

映画「インビクタス」youtube ページ


まだ作品を観ていない方は是非ご覧ください。
そしてマネーボールはまだ映画館でやっています!
スポーツファンは映画を利用して周りをどんどん巻き込んでいきましょう!
きっとあなたにも得るものがあるはずです!


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インビクタス 負けざる者たち

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ちなみに、マネーボールの原作者の作品でこんな名作もありましたね。


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