地域密着型スポーツクラブと部活の未来7(交流編)

1961年の柳川事件をきっかけに、断絶状態だったプロ野球界とアマチュア野球界の交流が解禁となっており事例も徐々にだが増えている。
母校でのとか、一部指導とか、相変わらずおかしな条項がついてくるが、とにもかくもめでたい。
やっと日本でよくも悪くも最も影響力のあるスポーツが文化へと近づいていく。

アメリカではこういった例がたくさんある。マイケル・ジョーダンはオフシーズンで母校ノース・カロライナ大学でトレーニングをし、後輩と真剣勝負のピックアップゲームを行った。
時には後輩のビンス・カーターやジェリー・スタックハウスなども揃い、現役大学生の選手にとっては貴重な体験となっただろう。

NFLで言えば、夏のオフシーズンになるとマイアミ大学には、マイケル・アーヴィン、レイ・ルイスなどの大物スターがトレーニングをしに母校を訪れたそうだ。
ハードなトレーニング姿を見せると同時に、プロとしての様々な経験やノウハウ、姿勢、そして必要事項が伝えられていく。

もちろん選手は全員天使ではないから、全ていいことばかり教えているとは限らないだろうが、その影響力は計り知れない。
日本でもホークスの和田投手・引退した小宮山投手、ヤクルトの青木選手が共に一同に母校の早稲田で学生と自主トレする日も近いのかもしれない。

さて、交流という観点から部活を考えてみると、まだまだ改良の余地があるのではないだろうか?
今回は縦と横の軸で部活での交流を考えてみたい。

横軸で考えると、部活は色々な発展の可能性がある。
思いつくままに書いてみる。

レーニング器具が、各部活によって所有されていないだろうか?
各部活の器具を全部集めたらそれなりのトレーニングルームが作れるのではないか?

学校で監督・コーチ会議はあるだろうか?
各部活の横の連携を取れば、様々なノウハウが得られるのではないだろうか?
レーニング方法、指導方法、医療に対する情報、様々な情報が回ることによって、切磋琢磨、互いに刺激しあって学校全体が活気付く。

極端な例で行けば、バスケ部の試合がある。
試合前にブラスバンド部が演奏する。
ハーフタイムにダンス部とチアリーダー部がパフォーマンスを行う。
試合中にはカメラ部が写真を撮る。
試合が終わった後は、応援に来た先生、学生それと父兄も含めてバーベキュー。
近隣の学校と毎年必ず同時期にホーム&アウェイでこのようなイベントを開催すれば、ちょっとしたお祭りのような楽しい伝統になるかもしれない。

もう少し競技よりの話をすれば、陸上部が主催となって、バスケ部・サッカー部・野球部・ラグビー部などに走り方についてのレクチャーをしてもいいかもしれない。
プロの世界になるが、ヴィッセル神戸が陸上の100m日本記録保持者の伊藤浩司氏とコラボしている。


柔道部がレスング部とラグビー部とアメフト部と共にタックルや投げる技の研究などをしてもいいかもしれない。

ラグビーの面倒をみているトレーナーとお医者さんが他の部活の面倒もみると、怪我の減少と予防にいいかもしれない。

横の連携を取ったからといって急に走るのが早くなったり、力がついたりするわけではない。
しかし、そこから何かを感じ取ったり、交流が生まれたりすることによって、学生の新しいモチベーションになると共に、可能性が心身ともに大きく広がっていくことは間違いないだろう。
そして何より学校が活気付くことは間違いないだろう。

次に縦軸で考えた場合の部活だが、これこそ前述のアメリカの例がわかりやすいだろう。
どんなにうぬぼれた学生でも、神様マイケル・ジョーダンビンス・カーターが頭の上を飛んで行けば、謙虚になるものである。
そしてそこから肌で感じる強烈な何かがあるだろう。

しかし、上下関係が厳しい日本の部活において、先輩が人間のできているスーパースターばかりとは限らない。(もちろんアメリカでもそうだが)
今でこそ少ないものの、昔の大学の部活は、4年生は神様、3年生は天王、2年生は平民で1年生は奴隷と言われたものである。

引退もしくは卒業した見知らぬ先輩が突然やってきて、怒鳴り散らされたり、いきなりしごかれたりした人は、何百万といることだろう。
その場合の縦の交流は一体なんなのだろう....
レイ・ルイスが来て、プロになるために努力がどれだけ必要かと学生に語るのとでは訳が違う。

 もちろん優しい言葉をかけてくれたり、食事に連れて行ってくれたり、アドバイスしてくれる良き先輩もその分たくさんいるだろう。
しかし多くの場合、同時期に在籍していない限り、なかなか縦の交流がないというのが、部活の本当のところではないだろうか?
せめてOB訪問ぐらいだろうか...

そうなると最大のマイナス点は、良き伝統がきちんと伝承されないということである。以前明治大学ラグビー部で有名な「前へ」という言葉は、当時早稲田の監督だった清宮氏曰く「ノウハウが引き継がれていない」、「昔はそのためのノウハウがあった」ということになっていたが、ひょっとするとこれなどは最もわかりやすい例かも知れない。

またあまりにもその先輩のことを知らないために、本当はとてもいいことを言っているのに、ただの「過去の人」と見られて、現役の学生に敬遠されてしまうかもしれない。
そうなると、OBも居心地が悪くなって、現場に顔を出さなくなる。
これではお互いに損である。

これを解消する手段として、お金のかからない方法を一つ提案したい。
それは、毎年シーズンの最後に部活のオフィシャルガイドを作ること。
名称はなんでもいい。
公式ブックでも、部活誌でもなんでもいいが、以下のものを担当の部長の監修のもと、取り入れて残してもらいたい。
 チームの集合写真 
 チームの目標
 在籍部員の名前
 できれば最上級生の顔写真と紹介文
 過去の戦績
 1年間の試合データ
もし、学校新聞を発行している組織があれば、何か文章や取材文章をお願いして加えてもらうと面白いかもしれない。
最後に、これを必ず学校の図書館に保存すること。

カラーじゃなくても立派なものじゃなくてもいいだろう。
しかし、しっかり毎年毎年記録を残すことが大事である。
これらの存在で、後輩は先輩や過去から多くのものを学ぶだろうし、OB・OGがどのような形で取り組んだかが分かるだろう。
それらの情報を元に目標を持ったり、新たなモチベーションが生まれるだろう。

なかでも日本の部活で特に欠けている物は、しっかりとしたデータであろう。
何勝何敗したか、打率はいくつか?
ゴールを幾つ決めたか?
何点入れたか?
誰と対戦したか?そういったデータがきちんと保存されてあったり、残されたり、まとめられることがほとんどない。
 
突然現れて怒鳴り散らしたOBは、ひょっとして1試合平均2ゴール挙げているエースストライカーかもしれないし、万年ベンチのとんでもない奴かもしれない。
マネージャーだったOBは、起業した大金持ちかもしれないし、現在髪の毛が薄くて窓際族風のサラリーマンは、毎試合30得点入れていたエースだったかもしれない。

いずれにせよ、そういった数字や記録が残ることによって、学校への愛着や先輩への親近感が生まれるだろうし、自分の現在の実力を比較することを把握するのにも役立つだろう。
現在プロで活躍している先輩の母校在籍時の成績はどれぐらいだっただろうか?知りたいところだろう。
愛工大名電の野球部であれば、イチローの高校時代の成績を知りたいだろうし、能代工のバスケ部員は、田臥勇太の成績を知りたいだろう。
名門校にはデータはあるかもしれないが、情報化社会のこの時代、どんな学校でもこのようなデータが残っていて欲しいものだ。

現在の部活は活発な交流を通して、まだまだ新たな可能性が秘められている。
これを活かすためにはやはり学校の部活全体をまとめていく存在が必要かもしれない。
それをアメリカではAD, Athletic Directorという職種が担っている。
いずれにせよ、縦と横の交流が盛んに行われることを願う。


こういう姿を見せることが一番説得力があるでしょう。できれば母校で。



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