書評:『北島康介」プロジェクト

「北島康介」プロジェクト

「北島康介」プロジェクト


企業スポーツが衰退している現在、オリンピック競技アスリートの生計の立て方が急激に変わってきている。
JOCのシンボルアスリートという制度を使う選手がいれば、室伏や北島のように断る選手もいる。
スタッフまで自分で賄うパターンとして、マラソン高橋尚子が「チームQ」をつくったのはある意味革新的なことだった。

このように個人スポーツで、しかも野球やサッカーのように定期的に大人数を動員するリーグ戦などを持たない競技で活躍している選手の転換期にある中で、当時(2004年)の北島康介のチームの取り組みは特別なものがある。
コーチには平井伯昌、映像分析には河合正治、戦略分析には岩原文彦、肉体改造には田村尚之、コンディショニングには小沢邦彦、そしてスポンサーや広報担当としてサニーサイドアップ。(この本ではサニーサイドアップの取り組みについてはあまりフォーカスされていない)
平井コーチを中心として、キックの仕方や筋力アップ、各担当者間で多くの熱い議論がなされ、どんどん北島が取り込んでいく過程が描かれている。
トップアスリートがトップスタッフに支えられて壁を越えていく様子がわかる。
今後のトップアスリートの競技生活のあり方が垣間見えてくる。
違う分野のスペシャリストがコラボした点はビジネス的な観点からも興味深いし、日本のスポーツ界に蔓延る閉鎖性を破った点でも意義深い。

しかし同時に、各担当者の生活に不自由が見えてくることもわかる。
このスーパーチームは1年中北島康介をサポートしていきたいだろうが、それではなかなか生活していけないのである。
よって別職(もちろん所属先が違う)を持っており、オリンピックなどの大きな大会ではなんとか融通を利かせるている部分は否めない。
この辺りはチームQは一歩先を行ったわけだが、本来ならばこのチーム北島やチームQを受け入れるクラブチームがあるといいのだろう。
イメージとしては、アスリート北島康介ベルマーレ平塚所属、みたいな。


それはさておき、熱き優秀なスタッフと選手が一体になって金メダルを目指す過程を本著は描いており、本来なら裏方とされているスタッフの重要性を上手に伝えている読み応えのある本である。
F1的な例えでいえば、いくらマシンが良くても整備しないと勝てないのと一緒で、競技の裏方に光が当たる内容である。
この本をきっかけに、北島康介のトップアスリートはもちろん、スタッフの生活も支援されるきっかけになればいいのではないだろうか?

ちなみにその後の北島の活躍は周知の通り。
アテネどころか北京オリンピックでも大活躍し、水泳界のみならず日本のトップスターになった。
そしてアメリカに拠点を移し、次は新たな形でオリンピックのメダルを目指している。
あれだけの成功をもたらしたチームは結成されていない。
もちろん獲得した多くのスポンサードのおかげで自身の体の手入れ等にかけられる金銭的余裕はあるだろう。
しかしその辺りは現状あまりみえてこない。
どちらかと言えば個での戦いを挑んでいる印象である。
過去とは違うやり方の挑戦が何を残すのか?
オリンピック後の比較はスポーツ界にとって興味深い結果が待っているかもしれない。
この先彼は何をスポーツ界に残すのだろうか?
まずは世界水泳



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