書評:佐藤義則 一流の育て方 ダルビッシュ有 田中将大との1600日

この本の真髄は、この一文に含まれているかもしれない。
「リハビリ中は、治療院に通いながら人間の体の仕組みを徹底的に学んだ」
佐藤コーチの現役時代のエピソードである。

この本の評価が迷うところは、この部分を著者が重要視していないところになる。
著者はどちらかというと、いい意味での野球バカたちの野球談義とか師弟愛の部分について言及している事が多い。
そしてこの本を日本のサラリーマン社会に参考になるようにと育成術中心の内容にしている。


それより違うところに、この本の価値があるように思う。
これだけ医学と情報が進んだ世の中でも、ピッチングに関しては論理的な説明が成されていない事が多い。
投球数と肩の消耗の関係は日米間問わず、大きな問題、いや謎のままである。
佐藤コーチもヒルマン、ブラウンといった監督のもとで、プロフェッショナルな仕事ぶりをしたものの、トレーニングや投球数ではわかり合えなかったようだ。

しかし、徹底的に体の仕組みを勉強した佐藤コーチだからこそ、ひょっとするとトレーニングコーチとピッチングコーチの軋轢を論理的に解決できる唯一の人物かもしれない。
例えばこの先アスレティック・トレーナーの資格でも取って、徹底的に理論も学んだりしようものなら、画期的な橋渡し役にもなるかもしれない。
その際には、きっと大リーグの投手コーチにだってなれる。
それどころか、世界で一番の投手コーチになる可能性もあるのではないだろうか?

こういった可能性をより深く示すためには、著者が逆の立場からの取材も必要となるだろうし、そもそもテーマも違う訳だから評価すべきではないのかもしれない。
しかし、素晴らしい可能性を提示した以上は、そこをもっと深く掘り下げてほしかった。

最後に誤植を一つ発見。ヒルマンは日ハム後はロイヤルズの監督になったはず。ロッキーズではない。。。

佐藤義則 一流の育て方 ダルビッシュ有 田中将大との1600日

佐藤義則 一流の育て方 ダルビッシュ有 田中将大との1600日