成熟都市の五輪

2020年の五輪招致に向けて東京都が立候補を発表している。
今年1月の世論調査では、2016年の招致よりも10%高い65%の支持率を獲得しているという。



2020年開催招致の最大のメッセージは「復興五輪」だという。
しかし、実際に2月にIOCに提出した申請ファイルには「スポーツの力」をキーワードにしているという。
そして国内向けのメッセージは「日本復活」と記してあるそうだ。



この使い分けは、世界中で貧困や経済危機、災害に苦しむ人がいる中で、自国の復興だけを訴えることが必ずしも票集めにプラスと働くかどうかの迷いが生じたことが原因のようだ。
全世界のIOC委員の投票によって決められる開催地は、当然貧困や他の問題にに喘ぐ国の代表もいるため、必ずしも自国の復活というメッセージは理解をされないかもしれないということだろう。


ちなみに対抗馬は、イスタンブールマドリード、ドーハ、バクー(アゼルバイジャン)の4都市。
欧州とアジアの架け橋であること及びイスラム圏初の開催をアピールするイスタンブール(トルコ)や、既存施設の効率的な利用による東京より大幅に低い招致費用(75億円 vs 30億円)でアピールするマドリード(スペイン)が最大の敵と考えられるだろう。
ちなみにローマは財政難で立候補を取りやめている。

東京も実は既存施設の利用という点ではアピールできている。
「コンパクト五輪」というコンセプトの基に、半径8km圏内に全ての競技会場が収まる利便性を強調している。
メインの競技場は国立競技場を予定し、1千億円の費用を見立て現状の5万4千人の収容キャパを8万人に拡張する方針だ。
当然のことながらそれに伴い、国立競技場が存在している神宮周辺の再開発の話は浮上する。
コンパクトとは言え、各施設へのアクセス向上のため、新たな交通網の検討の話も飛び出す。
そして当然もっとストレートな表現として「景気浮揚」という見出しも飛び交う。


しかし考えてみたい。
スポーツの力とは景気浮揚のことを差すのだろうか?
世界的にみても成熟した都市である東京に五輪を招致する理由は「景気浮揚」なのであろうか?
東日本大震災からの復興がメインテーマであれば、もっと違うプレゼン内容になったはずだ。
被災地のスポーツ施設だけをみてもかなりの数がある。
いくつか紹介しよう。

岩手県
宮古球場:復旧未着手

大船渡市民体育館・プール:復旧未着手

陸前高田市高田松原野球場・サッカー場:復旧計画中

宮城県
石巻市民球場フットボール場:使用不能

東北電力名取スポーツパーク:野球場と陸上競技場が使用不能

福島県
Jヴィレッジ:現在復旧作業拠点。再開見通し立たず

(2月27日朝日新聞参照)

確かに招致の申請ファイルには、サッカーの予選を宮城で行うことは記載されているようだ。
ところが、これらの施設や地域についての言及は残念ながら少ないことが予想される。
そもそもオリンピックは特定の都市で行うものであり、国で行うものではない。
実際に招致運動は各都市で争われる。
つまり復興という言葉が日本全体を指しているのか?東京を指しているのか?はたまた東日本を指しているのか?現状ではわかりにくい。
ましてやそれが日本の景気浮揚を指しているのか?被災地の復興なのか?もまたわかりにくい。
2020年の東京五輪招致の意義は現状ではまるでわからない。
「暗いニュースばかり続いたからハッピーなイベントを開催したい」
こんなように聞こえても仕方ないかもしれない。


そして以前に名古屋も大阪も招致合戦で敗れ去ったので、最も勝ち目のある東京にこだわると。
この点もなんだか矛盾を感じる。
最も勝ち目のある成熟した都市の復興とは何だろうか?


ではどうすれば良いのだろうか?
それぞれ整理をしてみたい。
東日本大震災の復興をメインテーマに掲げるのであれば、これは超法規的な措置、特例をIOCに訴えかけるしかないだろう。
これはJOCの範疇を超えた話であろう。
政府が動くしかない。
政府が今回は都市ではなく、地域として立候補したい、東日本全体での開催を求める動きをすることだろう。
都市をまたぐことは百も招致。
2020年東京五輪招致委員会の最高顧問に野田首将が就任しているが、そんな役職よりももっと高い位置からのアプローチしか現実味はない。
日本という国の代表として、国民の願いを込めてIOCという一筋縄でいかない組織に問いかける以外ないだろう。
世界中の世論を味方につけることが可能であれば、何かの動きがあるかもしれない。
それにはどれだけ本気かを見せなければならない。



次に東京という成熟都市をみてみたい。
コンパクト五輪を訴える東京の23区の人口は約880万人で、人口密度は全国と比較すると実に40倍以上ある。
競技場の施設は確かにコンパクトに配置されているが、信じられない数の人も同じ地区内に存在していることになる。
1月下旬に発表された文部科学省のスポーツ基本計画の中間報告の主な政策の一つに


「競技スポーツと地域スポーツの好循環」
が挙げられている。
「総合型スポーツクラブの育成。各市町村に最低一つ。」
を目指しているようだ。


これは、総合型地域スポーツクラブがこれまで以上に政府の中で高い位置づけになっているということだ。
しかし東京都のスポーツ施設一覧を見る限り、総合型地域スポーツクラブの存在はみえてこない。
どうも政府と東京都はスポーツにおいて連携していないように見える。
人口密度がダントツに高い都市における人々の生活にはストレスがかかることは容易に想像できるだろう。
中間報告には下記の政策目標も定められている

「できるだけ早期に成人の3人に2人が週1回以上スポーツする。」
「週3回以上は3人に一人」
「運動をしない人をできるだけゼロにする」


残念ながら国立競技場の改修に1千億円を投入したところで、都民のスポーツする回数は上がらないだろう。
また、総合型スポーツクラブも特に生まれるわけでもない。
私が都知事ならば、五輪招致の意義、及び招致成功の鍵はここにある。
成熟都市に本当の意味でのスポーツライフを提供すること。
五輪開催とこのテーマが結びついた時に初めて「スポーツの力」が大都市とその人々に継続的なプラスをもたらすのではないだろうか?
そのための施設やインフラではないだろうか?
五輪後のこれらの有効活用は本当に大事なポイントだ。
長野オリンピックを思い出してみるといい。
表彰式の会場は早々と駐車場と化していたようだし、選手村も跡形もないという話だ。


けれども具体的にどのようにするのかは残念ながら今の私には答えがない。
ひょっとすると本当に圧倒的な意味で景気浮揚をまず狙って、そこから出た利益を地域の総合型スポーツクラブに落とすのがいいのかもしれない。
それとも東京都のスポーツ施設を2020年に向けて予選会場などとして使用されるべく改修し、終了後スポーツクラブを兼ねられるよう改良することかもしれない。
いずれにせよ五輪開催による都民へのメリットを示せるのではないだろうか?
少なくともロンドン五輪招致委員会は、パリに勝った理由として「子どもたちにもっとスポーツを」と訴えたことを成功要因として挙げている。
日本もそこに見習うべきヒントはあるのではないだろうか?
私も考え続けてみたい。


東京都の挑戦は今後様々なプロセスを経て、2013年6月にIOCへ各都市のプレゼン、同9月7日のブエノスアイレスで開かれるIOC総会にて決着される。


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