ドラフトから垣間見えるプロ野球の異常さ


菅野智之投手は巨人の原監督の甥であり、本人も球団も入団を早くから希望していた。
ドラフトという公正な手続きの結果、彼の交渉権は日ハムのものとなった。
その結果、
「憲法違反」 by 渡辺恒雄

「だまし討ち」 by 原貢

と、ひどい罵声と喧噪の渦中の球団となったしまった。

この一連の騒動からプロ野球の色々な問題がみえてくる。

まず第一に、ドラフトを完全ウェーバー制にしていないからこういったトラブルが起きるのだ。
最初から誰もが納得するわかりやすい公正な形にしておけば、こういった問題は起きないのだ。
現に12球団でブッチギリで一番弱い球団が結果的に1位指名を12球団中一番最後に行っているのだ。
もはや死を宣告しているようなものである。


その事実が示唆していることは、プロ野球にははなから共存共栄の発想がないのだ。
一部の球団の力学がリーグ全体に影響を及ぼすようにできているのだ。
ロックアウトなどの問題はあったものの、NFLは元々戦力均衡化をリーグ全体で進めている制度をとっている。
その方がファンも盛り上がり、裾野が広がり、そしてスモールマーケットチームも赤字で潰れることなく繁栄する機会が増えるからだ。
そしてそのために、独禁法の特例扱いとしてアメリカの法令からも免除されているのだ。
したがってここで「憲法違反だ」と一オーナーが騒いでいる時点で二つの大問題が浮かび上がる。
一つは共存共栄の発想が皆無であること。
二つ目は、制度としてかなり遅れているのにも関わらず、その認識が皆無だということだ。
もっと言えば、アメリカではメディア企業の球団所有を許していない。
巨人のように自社マスコミを存分に使って世論を動かし、自分の球団に有利な方向へ世論を煽動、もしくは誘導することを禁じているのだ。
つまりリーグの戦力均衡化という方針の中で、フェアに競い合えということなのだろう。
ここでもやはり制度の成熟の違いが見て取れるだろう。


その制度の遅れの象徴として、原監督の父の発言があるのだろう。
「だまし討ち」
それは影響力のある家族ぐるみ、そして読売グループというマスコミぐるみで巨人に行きたいという意思表示と宣伝活動によって他球団を牽制したことはわかる。
しかしそれだからといって、ドラフトという制度を越えられるという想いは傲慢だろう。
そんな宣伝活動をされたら、事前に球団があいさつに行きにくくなるのは自明の理であり、むしろ菅野、原、読売一族の作戦である。
ただ考えてみて欲しい。
こういう時のためこそ「代理人」という職業があるのではないだろうか?
個人と球団が直接金銭周りや条件周りで交渉をしてうまく行くケースの方が少ないのではないだろうか?
元ヤクルトのスカウト部長が明かしたように、プロ野球には裏金が存在していた。
ソフトバンク新垣投手のドラフトの時のように、スカウトが自殺したケースもある。
FAや大リーグ挑戦ではしょっちゅうモメている。
全ての問題は、情と夢と現実に苛まれるケースであり、それをスマートに進めるために代理人というものが存在しているのだ。
しかしプロ野球界はこの代理人の存在を完全に認めている訳ではない。
弁護士の資格がいるだとかなんだかんだ色々あり、サッカーや大リーグのようにきちんと浸透していないし、ライセンス制度も私の知る限り設けていないのではないだろうか?
野投手の場合に、本人も日ハムも必要としているのは優秀な仲介人、つまり代理人であり、有名な怒り心頭の親戚であったり、他球団の監督であったりではないはずだ。


と、ここまで書くと全て菅野投手が悪いように聞こえてしまうが、そういう訳でもない。
どうしてもという時の制度がないことも、この事態をややこしくさせている。
アメリカの4大スポーツでこういう問題が起きる時は、指名権をトレードしたりする。
この例で言えば、日ハムが第1巡の交渉権、つまり菅野君を巨人にトレードする訳だ。
日ハムは長野でも東野でも内海でも誰でも欲しい選手を巨人に言い渡せばいい。
ドラフトの交渉権や指名権をトレードすることができると、弱い球団にも強くなるチャンスが増える。
ましてやこれが完全ウェーバー制と一つになれば、もっと可能性がある。
どうことかと言えば、
完全ウェーバー制なら横浜ベイスターズが一番目に選手を指名する。
これがもし菅野投手である確率が高ければ、巨人はその指名権を欲しがるだろう。
結果、横浜は巨人の主力を代わりにもらい、巨人は無事菅野投手を指名する。
どうだろうか、一石二鳥、相思相愛、リーグ全体も盛り上がりそうではないか?
横浜にもファンが増えそうではないか?
少しは強くなりそうではないか?


こう見ていくと、完璧な制度などもちろん存在はしないが、いかにプロ野球が脆弱な制度の上に成り立っているか、そして不必要な犠牲者を多く出しているかわかるだろう。
野投手も何も悪いことはしていないし、日ハムも何も悪いことをしていないのだ。
そして最後に決定的に痛いことは、コミッシュナーの発言がどこからも聞こえてこないことだ。
一つのケースにプロ野球の問題が全て詰まっているにも関わらずだ。
制度を変えるべき人物が無頓着では、この先プロ野球の未来が不安でたまらない。
しかし個人的な感想としては、菅野投手には日ハムに進んでもらいたい。
ひょっとすると叔父はいつの日か日ハムの監督になるかもしれない。
(栗山政権は短い気がしています...)
ひょっとすると完全ウェーバー制と共にFA期間が短縮するかもしれない。
ひょっとするとWBCで共に世界一になれるかもしれない。
原家の壮大な夢のレールを歩いてきたからこそ、人生何があるかわからない脱線も味わってみるのもいいのではないだろうか?
その方がスケールが大きなピッチャーになるのではないだろうか?





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参考ブログ
時代錯誤も 甚だしい・・・・ by スポーツ えっせい
周囲の異常な喧騒 by 或る野球ファンのひとりごと

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