書評:天才セッター中田久美の頭脳(タクティクス)


天才セッター中田久美の頭脳(タクティクス)

天才セッター中田久美の頭脳(タクティクス)


最近キャラクターが濃いスポーツ界の偉人の本が続く。
サッカーの釜本しかり、野球の江夏しかり。
一つ残念でならないのは、こういった人物が皆評論家と化し、実際の指導の現場からは遠う下がっていることだ。
中田久美もその流れの一人かもしれない。
もう終わってしまったが、ジャンクスポーツなどを見ていたら、彼女の現役を知らない人は、この人をただの往年の名選手で根性と気合の塊のように感じてしまうかもしれない。
釜本が現在背負ってしまっている印象も残念ながら同様だろう。
確かにその一面はあるかもしれない。
現役時代まだ若い韓国の選手にネット越しから「かかってこいこらぁー」とどやしたら、相手がびびって何も出来なくなってしまったと披露するエピソードなどは、その闘争心の表れかもしれない。


ところがところが、こんなニュースが飛び込んできた。
中田久美さんがコーチ就任 バレー女子の久光製薬

ユース代表のコーチやイタリアでのコーチ修行を経て、久光のセッター育成に力を発揮するようだ。



そんな中田久美だが、この本を読めばただの根性の塊ではないということを理解できる。
その点を二宮清純が見抜き、その頭脳と戦術に迫り、尚且つバレーボールの奥深さを紹介してくれる、読みやすい良質な構成になっている。


まずは、高校に行かず、すぐに実業団そして全日本入り(めぐかなよりも若く、そして主力)した天才の考えが綴ってある。
ここは、澤穂希選手と同じ部分である。
学校という縛り、学年という縛りを受けずに常に高いレベルに身を置いたことで、世界のトップレベルの選手になったのだ。



次に、全日本がまだ世界に君臨していた頃のノウハウ、人物、戦術を継承できる人物の一人でもある彼女が当時の強さの訳を伝えている。


さらにセッターとして、いかに相手の裏をかいたか?
いかに味方をフォローするでなく「活かした」か?
いかに流れを引き寄せたか?
相手コートを観察して何を掴んだか?
その司令塔としての戦術眼を二宮氏の豊富な取材経験からの比較(ヤクルト古田)などを通して浮き彫りにされていく。


この辺りは、日本全国の司令塔、ファンジスタを目指す諸君に読んでもらいたい。
必ずためになる事が書いてある。
やはり、その競技をいかに深く掘り下げて考え抜いた時に、ひらめきやゲームコントロールができるのだろう。


そして、現在の全日本についても語られている。
しかし、この本が出版されたのは、日本がアテネオリンピックに向けてバレーボールブームが始まる前であり、ちょうど竹下が復活し、やっと大山が登場するぐらいの時期である。
したがってまだ栗原や木村らの名前など一般世間が知る前の取材になっている。


その後彼女は柳本監督時代に全日本のお手伝いをしたり、ビーチウィンズに関わったりしているが、イマイチニュースは聞こえてこなかった。
その反省も込めたコーチ修行だったのだろうか?
いずれにせよ、次の司令塔育成に貢献してもらいたい!


そして著者の二宮清純には、中田久美vs遠藤のディープな司令塔対談を企画してもらうか、この本と同様な企画を遠藤とやることを期待したい。
それとも濃いキャラクター対決ということで、釜本と対談?
いっそのこと釜本、江夏、中田対談か!?
圧巻だろうなー




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