Randy Moss 引退

球技のチームスポーツの根本は、陣地取り合戦である。
決められた大きさのプレイフィールド(コート、リンク、フィールド)内で相手陣内に如何に攻めるか?如何に守るか?
それはバスケットボールしかり、ラグビーしかり、サッカーしかり、アイスホッケーしかり、そしてアメフトしかり。

現代のアスリートの身体能力はフィールドの大きさが決められた当初の想像をはるかに超えており、フィールド(プレイエリア)をなるべく狭くコンパクトにして相手にプレッシャーをかける戦術がほとんどの球技で浸透している。
それはサッカーのプレッシングしかり、アメフトのブリッツなどしかり。


そのため、どのボールゲームにおいても、フィールドを広く使うことが求められている。
サッカーではそれがサイド攻撃であり、バスケットボールでは3pt.シュートになる。
そしてNFLでは、フィールドを縦に長く使えることがディフェンスには最も脅威であるかもしれない。
サッカーで例えるとディフェンスがコンパクトに保てないと穴が開くのと同様に、アメフトでもディープスレット、つまり縦へのロングパスへの脅威がないとディフェンスはなかなか間延びしない。


ディープスレットを可能にする最大の武器が、スピード・高さを備えたWRである。
一人いるだけで、フィールド中にスペースが生まれ、他の選手が穴を見つけやすくなる。
そして現代最もその点で恐れられていた選手、NFLのスーパーWR、Randy Moss ランディー・モス選手(34歳)が先日引退を発表した。
日本の報道ではほとんど取り上げられていないのが残念だが、その活躍ぶりは数字が物語っている。
153タッチダウン(WR歴代2位)
14,858ヤード獲得(WR歴代5位)
954 キャッチ(WR歴代8位)




NFL史上1年で最も得点したオフェンス(2007年Patriots)と2位のオフェンス(1998年Vikings)に在籍していたことも、何かの偶然ではないだろう。
彼のゲームへのインパクトがそれだけでもわかる。




しかしその一方で、トラブルメーカーとしても有名だった。
審判に水をかけたり、試合中に帰宅してしまったり、警察ともめたりなどなど。
また努力をしない、全力でプレイをしないという評判も絶えずついてまわった。


NFL史上歴代No.1 WR, Jerry Rice(ジェリー・ライス)に至っては、こんなコメントを残している。

To see a guy with that much talent not give it 100 percent, it was almost like a little slap in the face. But Randy was Randy.

「ランディーみたいな才能ある存在が、常に100%で努力しないことは侮辱的だ。でもランディーはランディーであり続けた」




ただし、Terrel Owens(テレル・オウェンズ)とは違い、チームメイトとは打ち解けられたようだ。
コーチ陣の評判もそれほど悪くない。
人間的には「いい奴」なのだろう。
ただしムラッ気があるということなのか。
一方でTerrel Owensは、チームメイトといざこざを起こすものの、彼の練習量と努力を誰一人疑った人はいない。
あなたならどっちのスーパースターをチームに招き入れるか?
もしくはどちらもチームに加えないか?
こういった問題が多いアメリカでは監督の度量と力量が問われる。
そしてもっと問われるのが、彼を殿堂入りさせるかどうか?
同じように現役時代色々と物議を醸した、スーパーボウル3度優勝しているMichael Irvin(マイケル・アーヴィン)でさえ、1回目の投票では選ばれていない。


選手としても人としても評価されているChris Carter (クリス・カーター)とTim Brown(ティム・ブラウン)もまだ選ばれていない。

そこで努力と練習量、プロフェッショナルな態度という意味では烙印を押されているMossは殿堂入りに値するのだろうか?


別の観点で盛り上がっている点は、シーズン途中でどこか優勝を狙うチームで復活を果たすのではないかという点。
Patriots, Jetsと契約目前まで行ったという報道もあったものの、どの強豪チームとも契約で折り合いがつかなかったようだ。


才能はピカイチだけど、態度は悪い。
これはRandy Mossだけには止まらない、世界中が共有している悩みだろう。
リーダーの哲学のスタディーケースとして、Randy Mossはビジネススクールでも教材になるかもしれない。
とにかく良くも悪くもキャリアを通して常に話題を提供してくれたRandy Mossのハイライトをみれないことは、一ファンとしては残念だが、悩みが減った選手・スタッフも多いのかもしれない。
シーズンが深まるにつれて、復帰の話題でまた世間を賑わすのだろう。
いずれにせよ、今後復帰するかどうかも含め、殿堂入りするかどうかはとても興味深いところだ。
引退の後の悩みは、チームから殿堂へと移ったのかもしれない。


ちなみに私が個人的に一番興味をもった彼の話題は、NBAでも大活躍したJason Williams(ジェイソン・ウィリアムズ)とMossが高校時代バスケットのチームメイトであったこと。


この二人のバックコートコンビがプレーするところを最後にbjリーグで観たいかもしれない。


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