地域密着型スポーツクラブと部活の未来5(指導者編2)


前回は現在の部活における指導者の需要と供給の関係の難しさについて考えてみた。
優秀な指導者が学内に存在する場合はもちろん問題ないが、指導者がいなかったり、いるのに指導する部がないなどと問題は多い。


そういった場合に、地域のクラブが補完するという形が取れると「部活+クラブ」の共存共栄の良い形が生まれていくかもしれない。
そして部員の登録制度の見直しなどが求められるだろう。
市立船橋高校のサッカー部が部員増の悩みを解決するためにクラブも作ったが、これなんかはとてもいい試みではないだろうか?


さて今回は、指導者に求められる質に関して考えてみたい。


リクルートされた上手い選手のみの指導・起用、2軍選手の練習・試合時間はゼロ、考えることを放置させ勝利へ向けてロボット化する、失敗すると暴力・セクハラ、勝つことで学校の広告塔になる.....ひどい例をあえて並べたが、これらが学校の理念に沿っているのであればそれはその学校の方針だから問題はないのかもしれない。


しかしそんな教育理念を掲げている学校はないだろう。
前述のように指導者がきちんと学校の教育理念を理解して部活の指導に反映させることが大事である。
勝利至上主義が蔓延してしまえば、プロ養成所になってしまう可能性が高く、学生のためにはならない。
このサイトでも紹介した「星屑たち」という本を読んでもらえばわかると思う。
プロになる確率は極めて低く、なれなかった場合でもきちんと生きていけるように育てることは大事だ。


もう一つ現存する指導上の問題点は、技術指導の面である。
フラットスリーはできるが、ボールを止めて蹴ることはできない。
マッチアップゾーンはできるが、ドリブルとパスは全く出来ない。


似たようなケースが多くのスポーツで存在する。
勝利のためにある特殊なスタイルを身につけさせられたが、基礎はおろそかのまま
勝利至上主義ともつながってくるが、これはコーチのエゴ、自己満足意外なんでもなく、本当の意味での選手の成長を考えていない。
高いレベルの選手が集まっていれば、そのような戦術などを扱うことはレベルアップの一環としていいことだが、基礎技術ができない中高生にとっては、逆にそのスポーツの本当の醍醐味を教えないで終わらせてしまう。
そして卒業したりして環境が変わったときに悲劇が待っている。
違う戦略や戦術に対応できずに、そのスポーツがつまらなく感じてしまっては元も子もない。
遠回りでもきちんと基礎を教えてあげることが次につながるはずだ。
しかし、残念ながらそれすらできないケースも多い。


これは学校の果たす役割ではないが、ヨーロッパやオーストラリアのように、コーチのライセンス制度をしっかり導入することが多くの問題(技術指導、人間指導共に)を防ぐ役割を果たすだろう。
しかし、これは各協会の仕事であるだろうし、強制力がないと宝の持ち腐れになってしまう。
その辺りの現場との連携を行うのは文部科学省や各協会とかになるのだろうが、なんだか書いていてあまり期待が持てない気がしてきた。


別の意味での技術指導においての問題点は、安全面での指導である。
故障者がやたら多い部活が日本には多く存在する。
指導者は生徒の不注意や弱さなどを注意するケースが多いのではないか?
怪我は事故で、怪我した人間の責任だと思っている指導者が多すぎないか?
安全に競技に取り組めるように、最低限のきちんとした知識とノウハウを身につけることはひじょうに重要である。
特に若い頃からの膝と腰への怪我は致命傷だ。親の負担を考えた場合でも怪我は少ないほうがいいに決まっている。
しかし、現在は指導者も親も学校も、この辺の認識が足りない。


さて、ではどのようにこういった問題を解決していけばいいだろうか?
アメリカでは前者の問題については、学校にAD(アスレチックディレクター)という職を設けている。


ADの役割は、全ての部活の予算から指導者選び、環境の確保、他校や協会・リーグとの交渉を請け負う。
この役職がうまく機能すると、予算の最適配分、環境の改善、そして指導者がきちんと教育理念に沿った指導を行っているかのチェックが出来るわけだ。
部活全体の総責任者ということだ。日本にもこういった役職をきちんと設けることが必要な時期にきているかもしれない。
ADが日本で多く存在するようになれば、いずれそこからクラブのGMに就任することを目指す人も登場するかもしれない。


いずれにせよ、もし日本にこの役割を取り入れるならば、教頭レベルの先生が就くことが大事であろう。
そうすればしっかり教育理念が部活に行き届き、指導者の問題や環境の問題など色々と浮き彫りになると同時に、主体的に取り組んでいける。


次に安全面での問題では、アメリカではAT(アスレチック・トレーナー)という専門家を雇うケースが最も多い。
ATの役割は、医者と部活を結ぶパイプ役となって、現場の安全な運動環境を整えることである。
テーピングなどの怪我予防、怪我後のリハビリ、応急処置、そして怪我を減少させるための正しい体の使い方、さらには競技力向上のためのトレーニング方法の指導、といったように多岐にわたって生徒に安心して安全に競技に取り組めるようにする。
ちなみに、ヨーロッパやオーストラリアなどでは、コーチのライセンスプログラムの中に、安全面の教育がふくまれていたりする。


この点に関しては、日本での導入への道はまだまだ険しい。
指導者がトレーナーを受け入れたがらない傾向が強いし、日本には様々な資格が乱立しているために統一基準がない。
針灸から整体、接骨院さらにアメリカで浸透しているNATAの資格取得者も日本には増えつつある。(アメリカのATはこの資格がないと働けない)何を信じ、誰を選ぶのが最もいいか、今の日本ではわかりにくい。
NATAの資格レベルがかなり高いことは目に見えているが、日本での認知レベルと保持者数の少なさがネックだ。


現在の状況から考えると、コーチのライセンス制度、AD・ATの導入がすぐに行われるとは考えにくい。
しかしながら、導入したならばその効果はかなり大きいと考えるし、特にAD制の考えは、アメリカと同じ形を取らなくても導入自体はそんなに難しくない。


部活がそれぞれ活気と魅力を取り戻していくためにも、学生が安心して安全に取り組めるようにするためにも、そしてスポーツが文化として根付いていくためにも色々見直しを図りたいものだ。


最後にスポーツで活躍する学校の理念や校訓をいくつか。
指導者と生徒がその教育理念を反映しているかどうか見ていくのもおもしろいかもしれない。


能代工業高校 バスケットボール全国大会常連校

本校の校訓「和衷勤労」(わちゅうきんろう)は、   「心の底からやわらぎ、心を同じくし、まごこ   ろをつくして励み行う」という意味です。


帝京高校 野球・サッカー全国大会常連校

校 訓 正直 礼儀 実践綱領 自主 協力 責任 教育目標 一.学習環境を整え、教科課程や教科指導に工夫・改善を重ね、  効果的な学力増進をはかり、進学の実績をあげる 二.学園創立者冲永荘兵衛の遺訓「力むれば必ず達す」 「努力  は実力を生む、実力は自信を養い、自信は興味を倍加する」を  基とし、校訓、実践綱領にのっとり、厳しく、かつ温かい心で指導  にあたり、心身共に健全な公民を育成する 三.知・徳・体それぞれ共に均衡のとれた品位ある中・高生を育成  することを目指す


市立船橋高校 サッカー全国大会常連校

知性を磨き、たくましい体力と豊かな情操を育て、勤労と責任を重んじ、自主性・創造性に富む、心身共に健康な生徒の育成を期する。

刻苦研学の風を作興する。
誠実奉仕の実践をする。 明朗闊達な学生生活を建設する。


佐賀工業高校 ラグビー全国大会常連校
1) 本校の教育目標

 ① 平和で民主的な国家および社会の形成者としての資質を養う。
 ② 真理と正義を愛し、勤労と責任を重んじ、自主的精神に満ちた人格の形成を図る。
 ③ 自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力を育成する。
 ④ 基礎的・基本的な内容を重視し、また、専門的知識技能を習熟させ個性を生かす教育を充実させる。
 ⑤ 教育実践要綱(ァ) 至誠剛健 (ィ) 工夫創造  (ウ) 協力実践


早稲田大学

早稲田大学は学問の独立を全うし 学問の活用を効し 模範国民を造就するを以て建学の本旨と為す
早稲田大学は学問の独立を本旨と為すを以て 之が自由討究を主とし 常に独創の研鑽に力め以て 世界の学問に裨補せん事を期す
早稲田大学は学問の活用を本旨と為すを以て 学理を学理として研究すると共に 之を実際に応用するの道を講し以て 時世の進運に資せん事を期す
早稲田大学は模範国民の造就を本旨と為すを以て 個性を尊重し 身家を発達し 国家社会を利済し 併せて広く世界に活動す可き人格を養成せん事を期す

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