書評:叱るより、ささやけ −一流を育てるために必要なこと

叱るより、ささやけ

叱るより、ささやけ

世界水泳が開幕した。
近年の日本勢の躍進はすごいものがあるが、現在の礎を築いた人間にスポットライトを当ててみたい。
スイミングスクール大手、そして数多くのオリンピック選手を輩出しているイトマンスイミングスクールの名誉会長。
もうそろそろ85歳(出版当時、現在は90を超えております)にして現役コーチの生きた言葉と人生が綴られている。
聞き手の藤島大が好きで好きでたまらなさそうな、熱い心のこもった言葉が本を埋め尽くしている。

多くを語る必要性を感じないので、とりあえず引用させて頂く。奥田精一郎の言葉が全てを語るだろう。

古びた感動をいかに自慢しても、しょせんは過去のものや。未来への感動をどうやって求めるかを考えるのがコーチの仕事です。
叱って強ようなるなら、なんぼでも叱る。

「頑張ること」そのものが目標になったら途中で進路を見失ってしまう。

僕は理論屋ですよ。的を絞って集中させる。目標をもって練習させる。まず泳法ありき。ハードな鍛錬には頼りません。

子供さんの性格はそれぞれです。みな違う。個性こそ人間性です。

欲も得もなく、目の前におる存在のために汗かいてやろうという人間やないと。子供さんは一瞬で見抜きますからね。 

「打算を超越する」
言葉は簡単でも実際には難しいですよ。

水泳の指導者は、どうしても選手のトレーニングにばかり目がいきがちになる。それをサポートする食べ物が不細工なようでは強くならない。

やはり日本の場合は、学校体育がええ意味で存続しないと、どのスポーツも中途半端に終わりますよ。ある程度、学校体育を復興せな。誰もがスイミングスクールに入れるわけではない。いきなり球技はクラブといわれても、行けない環境の子もおる。もっと、よく考えなくてはいけません。スポーツ全部を社会体育でやるというわけにはいかん場合があるからね。

この他にも心に響く言葉がぎっしり詰まっている。一般的にあまり知られた人物ではないかもしれないが、一度読んだがいい本であることには間違いない。

ちなみに、クラブと部活の両立を85歳の方が唱えたことに驚いた。


オリンピック選手でもあった教え子、井本直歩子さんのコラムも合わせて読んでください。
より人物像が浮かび上がってくるでしょう。

水泳界の奇人そのまんま。





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