田臥勇太

田臥勇太はいい選手だと思う。
日本のバスケット界に蔓延っていた悪しき慣習と閉塞感を打破した功績は計り知れない。
これだけは間違いない。
彼がいなかったら日本のバスケットボール界はもっと悲惨なことになっていただろう。


ただバスケットボールという競技で日本が世界へ通用するかどうかを検討する際、彼のスキルを冷静に見る必要もあると思う。
田臥の最大の長所はファーストブレイク(速攻)の作り出し方及びブレイクでの判断力と処理能力だろう。
速攻をやらしたらどのNBAのガードに引けを取らないくらいの判断力があるといっても過言ではない。
この部分だけならスティーブ・ナッシュと遜色ないかもしれない。
これはマジック・ジョンソンに憧れて育った影響だろう。
マイケル・ジョーダンではなかった事が幸いしているという事。


しかし私が思うには決定的な短所もあり、それを本人も自覚しているのではないかと思う。
それは、アウトサイドのシュート力を含めた1対1の能力の欠如だろう。
彼は日本に復帰するにあたり、「圧倒的なスタッツを残したい」とコメントした。
しかし実際に開けてみれば、その点に関してはかなり物足りない。
まず彼は俗にいうストリークシューター(波にのるとよく入る場合も入るが、確率は高くないシューター)であるということ。
外角シュートの確率が低い。
そこから派生するオプションの少なさ及び身長のハンディがとにかく痛手だ。
これはほぼ同じ身長だったボイキンズとの決定的な差だ。
もちろんナッシュのプレイを1試合でも見たら外角シュートの違いがどれだけ大きく差となって表れるかわかるはずだ。
田臥もそれを自覚した上での「圧倒的なスタッツを残したい」というコメントにつながったのだろう。
アシストも得点も圧倒的に残せない限り、NBAへの道はないということを彼は知っていたのだ。

では圧倒的なスタッツってなんだ?可能なのか?といった場合に、知っておいてほしい事は、今年夏に行われた女子の世界選手権で、圧倒的なスタッツを残した日本人が二人もいたという事。
それは大神選手と吉田選手である。
彼女たちは、世界選手権の得点王とアシスト王となった。
つまり世界のトップの得点とアシストを残した選手だと言う事だ。
これこそ圧倒的なスタッツだろう。
得点王こそ1対1の能力の高さを示した証拠である。
しかし残念な事に、この二人の偉業はあまり報道される事はなかった。

圧倒的なスタッツを残した二人のスキルを会場に見に行って損をする事は絶対にないはずだろうし、来年WNBAに挑戦するかどうかも注目に値する。


もうベテランの域に入り始めた田臥に残された時間は少ない。
偉大な彼の存在が消えてしまう前に、日本のバスケット界は圧倒的なスタッツを残せる次の世代の選手たちの登場が必須だ。
そしてその存在が登場するまでは、いち早く世界にまた挑戦していくだろう女子の得点王とアシスト王をもっと応援しようじゃないか。
チームプレイももちろん大事だが、田臥、大神、吉田にはいい意味での1対1の圧倒的なスキルの必要性をどんどん見せてほしいし、説いてほしい。そうでなければ、日本は世界には通用しない。